ミルキーナイト~胡桃・21歳~☆第12章「風は、再び」
空は晴れていた。けれど、胡桃の心は曇っていた。
「ミルキー・シュート!」
無数の光弾が、町はずれの斜面に群がっていた小型魔物を一掃する。その光の中心に立つミルキーナイトの表情は、冷たい。
「……ふざけないで。どいつもこいつも、魔界のくせに……」
連日の戦い。胡桃は自ら町を巡回し、魔物を見つけては叩き潰していた。その戦いぶりは、まるで何かを“ぶつける”ような荒々しさだった。
「恋して損した。信じてバカ見た……」
夜になると、胡桃は独り部屋でレオの残したブローチを見つめ、そっと指先を這わせる。熱がこみ上げる。身体の奥から疼くような寂しさ。
(抱きしめられた感覚、忘れられない……)
涙とともに、幾度となく夜を越えた。だが、そのぬくもりはもう二度と戻らない。
* * *
そしてその夜。
「うふふ……会いたかったわ、ミルキーナイト」
甘く囁くような声が、町の中央公園に響いた。 木々の間から現れたのは、小さな少女の姿。 幼げな顔、リボンの付いたドレス、そして瞳には底知れぬ魔性の光。
「プリンセス・コマリシャス……!」
その隣に現れたのは、かつての悪夢。 フワフワの綿毛のような頭、長い舌をだらりと垂らし、黄色いネクタイを巻いた不気味な影。
「タンポポタイ……ッ!!」
ミルキーナイトの身体が震えた。
「おやおやぁ? 久しぶりだねぇ、ミルキーちゃん」
タンポポタイの舌がぬらりと地面を舐める。その気配だけで、胡桃の背筋が凍りつく。
(あのとき……私、あいつに……!)
頭の奥に焼き付いた過去の記憶が蘇る。変身が解除されかけ、何もできず、辱められた屈辱の記憶。
「ふふふ、どうしたの? その震え方……昔と同じ。あら、可愛いわね」
「くっ……くるなぁぁっ!!」
ミルキーナイトは拳を振るう。しかし、コマリシャスの放った闇の蝶がそれを絡め取り、動きを封じる。
「うふふ……さぁ、タンポポタイ。ザコ守護神をもう一度、かわいがってあげて」
「御意〜〜〜〜」
舌が伸びる。身を竦めるミルキーナイト。次の瞬間、彼女の身体は弾かれるように地面に叩きつけられた。
「きゃああっ!」
変身衣装が揺らぎ、解除寸前。胡桃は地面を這いながら必死に逃げようとするが、力が入らない。
「どうして……こんな、私……」
敗北。その瞬間、町中にその無様な姿が晒された。
* * *
その報を聞いたカスミは、歯を噛みしめた。 病院の屋上で、包帯だらけの身体を起こしながら、拳を握る。
「私じゃ、何も守れない……」
その背後から、風鈴のような声が聞こえた。
「カスミちゃん、落ち込んでるなら一杯どう?」
「……誰?」
振り向くと、そこには華やかな着物姿の女性が立っていた。 やや派手なメイク、無造作にまとめた髪、どこかアイドルのような雰囲気。
「風間凜。通称“凜ちゃん”。昔は地下でちょこっとアイドルやってたけど、今は真面目な巫女さんです☆」
「……風間凜? あの、セイクリッドウインド?」
「おお、知っててくれて嬉しい! サイン書こうか?」
カスミは目を見開いた。
「……なんで、ここに?」
「ミルキーナイトが負けたって聞いてさ。これは出番だな〜って思って」
凜はすっと右手をかざす。 その瞬間、風が吹いた。 巫女装束が光に包まれ、姿が変わる。
「セイクリッドウインド、再臨っ☆」
軽い口調のまま、凜の姿は白銀の戦士へと変わっていた。
「カスミちゃん、あんたさ。強くなりたいって思ってるでしょ?」
「……当たり前でしょ。ミルキーナイトも、町も……守りたい」
「なら、教えてあげるよ。あんたの中の風の“刃”を。──あたしが、導く」
凜は笑った。その笑顔は、まるで姉のようで、どこか母のようだった。
「さぁ、立とうか。あたしと一緒に、あんたも風になろ?」
夜の空気が揺れた。 新たな戦いが、始まろうとしていた。
(第13章へつづく)












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