DUGA

ミルキーナイト~胡桃・21歳~☆第6章「集う者たち」

 鄙野の空に、不吉な羽音が響いた。

 竹が軋むような高周波。それは、風でも鳥でもない。

 遠くの山裾から飛来した黒い影が、町外れの小学校跡地に着地すると、大地が小さく震えた。

「ミミミ……やっぱり田舎はいいねぇ……ミミズに優しい地面だ」

 それは、ミミズタケトンボ。

 長い螺旋状の尾を回転させて空を飛び、頭部には竹トンボの羽根が四枚、背には粘液のような器官が不気味に蠢いている。全身を通るミミズ状の血管が赤黒く脈打ち、見る者の嫌悪を刺激する。

 その魔物は、地面を這うように低く飛び、近くの畑に張り巡らされたビニールハウスを次々と破壊していった。

 「どうする? あの広さ、あの速さ……」

 町の防災無線からの連絡で駆けつけた胡桃は、すぐさま変身リングを握りしめた。

「ミルキー・アクト!」

 白と淡い茶色の光が踊り、ミルキーナイトが出現する。

 だが、相手は飛行能力を持ち、さらに粘液を飛ばして動きを封じる能力まで備えていた。

 「ミルキー・トルネード!」

 必殺の回転蹴りを放つも、ミミズタケトンボは身をくねらせて回避し、逆に粘液を浴びせかけてくる。

 「ぬっ……うう、動きが……!」

 泥のような粘液が脚にまとわりつき、ミルキーナイトの動きが鈍る。

「これこれぇ〜、そんな軽装で来ちゃだめだよぉ。ドレスコード:ヌルヌルだよ〜?」

 ミミズタケトンボは飛び回りながら、コミカルな声でからかう。

 しかし、その攻撃は本物だった。次の瞬間、ミルキーナイトは背中から地面に叩きつけられ、深く息を吐く。

 「ま、まだ……!」

 起き上がろうとしたそのときだった。

 「キャンディ・チェーンッ!」

 声とともに、空から飛来した鎖状の鞭がミミズタケトンボの尾を巻き取り、勢いよく引き倒した。

「ぬぅあっ!? 誰だ!?」

 ミミズタケトンボが振り向くと、そこには橙のドレスを翻す少女の姿。

 スカートは重厚なパニエで膨らむフレア型。足元はヒールブーツ。髪には飴色のリボン。

 その姿を、ミルキーナイトはよく知っていた。

「……ドリームキャンディ!」

「お久しぶりです、ミルキーナイト。お変わりないようで」

 杉原寧々。水都大学二回生。あの時、小学生でありながらミルキーナイトを救った存在。今は大人の女性に成長していた。

「助けに来ました。昔、あなたに憧れていた者として」

 寧々はキャンディチェーンを一閃し、ミミズタケトンボの突進を弾き返す。

 「いっけえええっ! ロリポップハンマーッ!!」

 キャンディチェーンが巨大な飴状のハンマーへと変形し、頭上から一撃を叩きつける。

「ギャフッ!?」

 地面に埋まるミミズタケトンボ。しかし、それでも奴は立ち上がり、再び飛び上がる。

「キャンディ・シャワーッ!!」

 寧々の掌から放たれた光の粒が一斉に降り注ぎ、魔物の粘液器官を焼き尽くす。もはや反撃は不可能だった。

「……すごい……あの頃より、もっと強くなってる……」

 ミルキーナイトは呟いた。

 戦闘後、二人は畑道に座り込んだ。

「寧々ちゃん……どうして、今ここに?」

「私は奈理子さん…ミラクルナイトが大好きなんです。……でも、私、あなたのことも忘れてなかった」

 寧々はミルキーナイトの手をそっと握った。

「あなた、ひとりで戦ってた。ずっと。私、それがどんなに寂しいことか、わかるつもりです」

 胡桃の目に、涙がにじむ。

「でも、私、水都の人間だから……この町で共に戦うなら、鄙野の仲間が必要ですね」

「……うん。わたし、探してみる。仲間を」

 二人は頷き合い、秋の空を見上げた。

「本当は、たまたま鄙比田温泉に来ただけなんです」

「隆くんと一緒に?」

 その空の先に、新たな戦いと、友情の予感があった――。

第7章へつづく)