ミルキーナイト~胡桃・21歳~☆第5章「再臨、守護神」
鄙野の町に、異様な風が吹き荒れていた。
天気予報にはなかった突風。町の案内看板が軋み、紅葉の葉が空高く舞い上がる。
だが、ただの風ではなかった。
それは“刃”だった。
「キュイィィィン……登場! 風の切れ味、絡繰の粋! 我らが魔界の職人魂〜! その名も!」
唐突に空から降ってきたのは、奇妙な人影。
いや、人影とは言い難い。回転しながら降下してきたそれは、巨大な歯車と鎌のような手足を備えた、からくり人形のような魔物。
「カマイタチカラクリ!推して参る!」
その姿は道化じみていて、声は妙に明るい。だが、周囲の建物の屋根はすでに風の刃で切り裂かれ、煙のように瓦が飛んでいた。
佐笠胡桃は変身リングを握りしめると、町の中心に駆け出した。
「この風……ただごとじゃない」
瞬間、視界を横切る銀光。
「うわっ!」
ギリギリで身をかわすと、彼女の横を鎌状の空気がかすめていく。
「おっとおっと、当たっちゃったらお嬢さん、千切れちゃうよぉ〜?」
屋根の上に立つカマイタチカラクリが、ひょいっと頭を下げて見せた。
「また変なのが……行くしかないね」
「ミルキー・アクト!」
変身の光が胡桃を包む。白と淡茶色のへそ出し戦闘衣装に身を包み、ミルキーナイトが再び姿を現す。
「風のイタズラ、止めてもらうよっ!」
だが、彼女の言葉を嘲笑うかのように、カマイタチカラクリは回転を始めた。
からくり歯車が高速回転し、その足元からは無数の風刃が放たれる。
「カマカマ回転斬りィィィィ! ……ってねっ!」
ミルキーナイトは跳び、かわし、時にはガードを試みる。
だが、風の鎌はあまりに速く、彼女の腕や脇腹に切創を与えていく。
「うっ……く、そ……」
ミルキーナイトが拳を放つも、敵のからくり装甲にはほとんど効いていない。
「ハーイ、ちょっと痛そうなお嬢さんにはサービスぅ〜。このカラクリ名物“ニノウデ千切りブレード”!」
両腕の鎌が風を巻き上げながら、ミルキーナイトに迫る。
体勢を崩した彼女は防ぎきれず、背中から建物の壁に叩きつけられた。
「がはっ……っ……!」
変身の光が一瞬、乱れる。白と茶の衣装が揺らぎ、変身解除寸前の兆候が現れる。
「ほらほら、お姉さん、もう終わっちゃうの? もっと頑張ってよ〜。回転しながら応援してあげようか?」
魔物の軽薄な声と反比例するように、ミルキーナイトの表情は厳しさを増していた。
「……私は、ここで終わらない……!」
そのときだった。
懐から落ちた古びた巻物が、眩い光を放ち始めた。
「これって……あの男の……」
巻物は自然に開き、封印された戦衣の図が空中に浮かび上がる。
「……やってみる価値、あるよね」
胡桃の目が光を宿す。
「ミルキー・アクト……第二形態、解放!」
白と淡茶の光が爆発的に広がる。
それはもはや可憐な魔法少女の衣装ではなかった。
スカートのラインは流線型に変わり、胸元には光を蓄える宝珠。足元はヒール付きのブーツへと変化していた。
「これが……“真”ミルキーナイト……!」
風が止んだ。
否、それは彼女自身の気配が風を支配したのだった。
「いっけぇぇぇっ!! ミルキー・インパクト!!」
放たれた拳は、風を裂き、空を引き裂いた。
歯車の装甲を貫き、カマイタチカラクリの中心核に直撃。
「ぎゃあああっ!? ああ〜〜職人生命がぁ〜〜ッ!」
爆発とともに魔物は吹き飛び、空の彼方に消えていった。
崩れた屋根の上に、静かに立つ真ミルキーナイト。
「……やっと、少しだけ追いついた気がするよ。あの日の私に」
彼女の髪が風に揺れ、夜の町に新たな守護の光が差し始めていた――。
(第6章へつづく)









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