ミラクルナイト☆第190話
九月の風が少しだけ秋の匂いを含み始めた、水都の昼下がり。
水都タワー前の大型ビジョンには、白い光に包まれた少女の姿が繰り返し映し出されていた。
《——“奈理子のブラ”。その胸に、あなたの夢を支える。》
《“奈理子のショーツ”。あなたの明日を守る、奇跡の純白。》
透き通るような声とともに、画面に映るのは戦士ではなく、少女・野宮奈理子。
白く可憐な下着姿で微笑む姿が、まるで水都の女神そのもののように輝いていた。
水都の人々はその眩しさに目を細めながら、店先のモニターに足を止める。
駅の通路では女子中高生が「え、マジあの子本物?」とざわつき、
街のポスターはファンによる盗難被害が多発。店の前では「奈理子ポスター在庫ゼロ」の張り紙まで出ていた。
そんな騒ぎの中心にいる奈理子本人は、今日の昼下がりには姿を見せていない。
その代わり、彼女の仲間二人が、静かに街の隅で語らっていた。
場所は、商店街の片隅にあるファーストフード店グフグフハンバーガー。
壁紙の配色は緑とオレンジ、店内の照明は落ち着いた黄色で、学生たちにも巫女にも意外と人気がある。
「ふぅ……この店、やっぱり落ち着くわね」
バンズを両手で支えながら、落ち着いた声で笑ったのは、赤い袴の上からカジュアルなカーディガンを羽織った女性——凜。
変身すれば風の戦士・セイクリッドウインドとして水都を守る、22歳の神社の巫女だ。
「……本当に……奈理子さん、すごい人気ですね」
対面の席では、制服姿の寧々がストローをくわえたまま、やや複雑そうな顔でモニターを見つめていた。
「そりゃあ、かわいいもんね。品もあるし、儚げだし、あの子には“神秘性”がある。だから人が惹かれるのよ」
「……でも、ちょっと、露出が……」
「ふふっ、心配してるの?弟くんが見ちゃうから?」
寧々の頬がぴくりと跳ねた。
「ち、ちがいますっ……!そ、そういうんじゃないです……けど……たしかに、隆が“姉ちゃんのブラ買ったら?”とか言われてるの見たら、ちょっと……心配には、なります」
「……可愛いなあ、寧々ちゃん」
からかうように笑いながら、凜はポテトを一本摘み上げた。
「でも、わたしは思うよ。奈理子ちゃんの決断、誇っていいと思う」
「……え?」
「コンプレックスがある子が、それでも“誰かの助けになりたい”って言って、自分を晒す。それって、ただの露出じゃない。勇気だよ」
その言葉に、寧々はしばらく黙り込んだ。
ストローの先でアイスココアをぐるぐると回しながら、小さく頷く。
「……そうですね。わたしも……戦う時、奈理子さんの背中を見ると、いつもそう思います。弱そうなのに、いつも真ん中に立ってる……」
「そう。だから私たちも、ちゃんと横に立ってあげなきゃね」
凜は手元のタブレットをタップし、カムカデの残骸分析データを表示する。
「で、本題。奴は逃げたけど、再戦は確実。今度は“下着”じゃなくて“誇り”を狙ってくる。私たちが守るのは、単なるヒロインのスカートじゃない。あの子の決意そのものよ」
「はい……!」
寧々が目を上げ、真っ直ぐに凜を見つめた。
その目には、ただの中学生ではない光。仲間としての誇りと覚悟が、しっかりと宿っていた。
(次こそ、奈理子さんを泣かせない……)
(そして、隆にもカッコ悪いところ見せない!)
強く握ったキャンディチャームが、制服のポケットで小さく光った。
学校帰りの制服姿のまま、奈理子は静かに錆びた鉄扉を開けた。
きぃ……という音とともに現れるのは、雑居ビルの屋上。
小さな給水塔と古びたベンチ、そして——何よりも広がる、夕焼けの空。
「……ふぅ、やっぱりここ、落ち着くね」
ぽつんとある古いベンチに腰かけると、奈理子はスカートの裾を軽く整えて、風に髪をなびかせた。
制服の胸元には、まだミコール提供の“奈理子のブラ”がしっかり収まっている。
「おつかれ、奈理子」
少し遅れて現れたのは、制服姿のライム。
イヤホンを垂らした、どこか都会の風を纏った少年だ。
奈理子より年下だが、その目には落ち着いた大人びた光がある。
「CM、見たぞ。街で話題になってるな、“奈理子のショーツ”って」
「うっ……あれ、ほんとに見たの?」
顔を赤くしてそらす奈理子。
だがライムは近づくと、その横に腰を下ろして、笑った。
「見たよ。ていうか、街中で見せられてる。ポスターの前で立ち止まるおっさん、今日だけで三人はいた」
「うぅ……やめてよ、そういうの……」
「でも、かわいかったよ。っていうか……かなりエロかった」
「っ……こらっ!」
奈理子は拳で軽くライムの肩を叩く。
その仕草すらも、どこか気を許している証だ。
「……ライムの前では、ちゃんと“わたし”でいたいって思ってるのに……」
「ちゃんと“奈理子”だろ、今?」
「……そっか」
風が吹き、奈理子のスカートがふわりと揺れる。
お互い無言のまま、しばし空を見上げる時間が流れた。
「なあ、奈理子」
「なに?」
「お前さ……ブラとショーツ、どっちが大事?」
「へ? な、なんで急にそんな……」
「いや、“奈理子のブラ&ショーツ”っていうわりには、地味な白いのだったからさ。案外普通なんだなーって」
「……!」
奈理子は頬をふくらませ、ぷいっと顔をそらした。
「ちょっと失礼じゃない? 綿100%の白ショーツは、清楚の象徴なんだからね!それに、女の子にとって本当に大事なのはブラなの!」
「……そうなの?」
「そうだよ。だって、成長する胸をちゃんと支えてくれるかどうかで、自信も、気持ちも変わるんだもん。“奈理子のブラ”はそういう機能がちゃんと考えられてて、たとえば着け心地も、締めつけ感も……って、聞いてる?」
「……んー、話長い」
「ちょっと!せっかく真面目に説明してるのにっ!」
ライムはいたずらっぽく笑いながら、奈理子の髪をそっと指に巻き取る。
「……でも、そうやって真剣に語ってるお前、ちょっと好き」
「……“ちょっと”じゃなくて“ちゃんと”好きって言ってよ」
「ちゃんと、好きだよ。ほら」
そう言って、ライムは奈理子の手を握った。
制服の袖越しに伝わる、温もり。
放課後の屋上に、ふたりだけの柔らかい時間が流れていた——。
「ねぇ、ライム……」
夕暮れが、校舎の向こうに溶けてゆく。
ビルの屋上。世界から切り取られたこの場所で、奈理子はライムの胸元に体を預けていた。
セーラー服はすでに脱がれ、彼女の華奢な体はミコール謹製の“奈理子のブラ”と、白いハイソックスだけという姿。
いや、少し濡れた”奈理子のショーツ”が右膝に絡まっている。
それでも、ライムの腕に包まれていると、恥ずかしさよりも安堵と甘えの感情が勝ってしまう。
「なんかさ……今日は、ずっと誰かの目がある感じで……疲れちゃった……」
「うん。ずっと見られてたもんな、“奈理子のショーツ”とか“奈理子のブラ”とか」
「もう、言わないで……!あんなの、商品なんだから……でも、嫌じゃなかったの。あれで、悩んでる子が少しでも楽になれるならって思って……でも……」
「でも?」
「ライムにだけは……見てほしいって、思ってたのに……」
ライムの指が、そっと奈理子の頬を撫でる。
「見てるよ、ちゃんと。誰よりも。奈理子がどんな気持ちであの仕事をして、どんな顔で笑ってるか、全部」
奈理子は静かに微笑んだ。
その笑顔は、街の広告に映るものよりずっと柔らかく、あたたかい。
「……ライムの前では、作った顔じゃなくていいんだね……よかった……」
「……うん。今の奈理子がいちばん、かわいい」
「うそ……でも……そう言われると、ちょっと嬉しい……」
体を寄せる。
柔らかな肌が、ライムの胸に密着する。
その距離感が、ふたりの関係の深さを物語っていた。
「……ねぇ、ライム。触っても……いいよ?」
ぽつりと、奈理子がつぶやいた。
「え?」
「だって……ライム、ずっと我慢してたの、わかってたから」
「……奈理子」
ライムがそっとブラをずらすと、奈理子は少し照れたように笑って、体を委ねた。
まるで“自分を好きでいてくれること”そのものを、全身で肯定するように。
「……誰のでもないんだよ。わたし……」
風が吹く。
秋の匂いが、ふたりの髪を揺らした。
「……奈理子」
ライムの唇が、奈理子の耳元にそっと触れた瞬間——
彼女は静かに目を閉じた。
この空の下、
このひとときだけは、世界でふたりきり。
制服を脱いだ彼女はもう“市民の天使”ではなく、
ただひとりの男の前で微笑む、恋する女の子だった。
「……ほんと、誰にも見せたくないな。今の奈理子」
「うん。今だけは、ライムだけの私でいていい?」
ライムは何も言わずに頷いた。
水都の街が騒がしさを取り戻す前の、たったひととき。
奈理子は、世界のどこよりもやすらげるこの場所で、ありのままの心を預けていた。
——しかし、その甘い時間は唐突に終わりを告げる。
《ピンポンパンポーン……》
《水都非常放送——水都公園噴水広場にて、怪人カムカデの出現を確認。市民の皆様は落ち着いて避難してください——繰り返します……》
ビルの下から響く町内放送。その名が告げられた瞬間、奈理子の瞳がきりりと鋭く変わった。
「……っ!」
「奈理子——!」
ライムが声を上げる間もなく、奈理子はすでに立ち上がっていた。
素早く捲り上がったブラを元に戻し、左足にショーツを潜らせる。
「もう行かなきゃ。ライム、ここにいて」
「待って、まだ……!」
「だめ。今は“奈理子”じゃいられない」
奈理子は素早く“奈理子のブラ”と“奈理子のショーツ”を整えると、
最後にアイマスクを手に取った。
「奇跡よ、私に力を——!」
アイマスクが眩く光り、下着姿の奈理子の体が水色の光に包まれる。
彼女の姿は、やがて翼を持つヒロイン——ミラクルナイトへと変わった。
「ライム、ごめんね。セーラー服、預けるから。……またあとでね」
微笑むその顔には、さっきまでの甘さはなく、
水都の守護神としての決意が宿っていた。
ミラクルナイトはミラクルウィングを広げ、
夕空を切り裂くようにして、屋上から飛び立っていく。
白い翼の軌跡が、まっすぐに噴水広場の方向を目指していた。
——愛と日常を背負いながらも、少女は再び戦場へ向かう。
水都公園・噴水広場。
いつもなら平和な憩いの場も、今は市民の悲鳴と避難誘導のアナウンスで騒然としていた。
中央の噴水が水柱を上げる中、そこに現れたのは、白と水色の閃光をまとったひとりの少女。
「水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しませんッ!」
パァンッ!と効果音つきでポーズを決める白翼のヒロイン・ミラクルナイト。
「おおっ!」
「出たぞ!ミラクルナイトだ!」
集まり始めた市民たちは、拍手と歓声でその登場を歓迎する。
最近では“奈理子のブラ&ショーツ”のCMでお馴染みとなり、今や街のアイドル級の人気だ。
ところが——
「……っ!?」
威風堂々と立っていたミラクルナイトが、ピクリと肩を震わせた。
(……やば……さっきの……そのままだった……!)
そう、変身前。
彼女は恋人ライムとの密やかな時間を過ごしたばかりで——
今、身につけている“奈理子のショーツ”は……ちょっと……しっとりしている。
(見られたら終わりだわ……清純可憐が台無し……!)
ざわ……と汗がにじむ。
いつもなら余裕でこなすヒロインポーズも、下半身に意識が集中し、ガチガチにぎこちない。
「ふふふん……来たな、パンチラヒロイン」
目の前に立ちはだかるのは、百足と蚊を掛け合わせたような不気味な肢体を持つ怪人——カムカデ。
背中から羽音を鳴らし、ねちっこく笑う。
「今日も一枚、脱いでもらおうかァッ!」
「な、なんですってぇぇえ!!」
ブンッ!とスカートを押さえながら、ミラクルナイトは後方へ飛び退く。
「ミラクルシャインブラストッ!!」
手元から放たれた水色の光弾が、一直線にカムカデへと向かう——が。
「ふははははっ、そんな遠距離ビームで俺を倒せるかよォ!」
カムカデの巨大な脚が光弾を弾き、地面に着弾した衝撃で土煙が舞い上がる。
「えーっ!?ビーム!?またビームかよ!」
「パンチラキックは!?キックはやらないの!?」
「今日は新作パンツが見れるって噂だったのに〜〜〜!!」
集まった市民の間から、不満の声が飛び交い始めた。
中には「ハイキックはまだですか?」と書かれたプラカードまで掲げている者までいる。
(やだやだやだっ、今日は無理、スカート翻すなんて絶対だめ!!)
汗ダラダラ。追い詰められるミラクルナイト。
一歩踏み出せば“見られてしまう”という恐怖が、戦士の判断を鈍らせる。
「おかしいなぁ……お前、今日はやけに動きが鈍いじゃねぇか?」
じり、と間合いを詰めるカムカデ。
「まさか……調子、悪いのかァ?」
「な、なんでもないわっ!」
「じゃあ……いただくぜェ、“奈理子のショーツ”ッ!!」
ギンッ!と光るカムカデの複眼。その脚が、ミラクルナイトのスカートへと——
「——キャンディッ!チェェェェェェン!!」
ぴしぃっ!!
その瞬間、鋭くしなる鞭が、カムカデの脚を弾いた。
「なにィッ!?」
ミラクルナイトの背後から、オレンジ色のドレスを翻して現れたのは、少女戦士——ドリームキャンディ!
「——奈理子さん!遅くなってごめんなさい!」
「ド、ドリームキャンディ……!」
「代わりに、私が蹴ってあげますっ!」
鞭が空を裂き、キャンディチェーンがぐるぐると渦を巻く。
「おおぉ!?ドリームキャンディきたぁああ!!」
「黄色ブルマの中学生戦士ッ!!」
「最近はキャンディも大人っぽくなったなぁ」
市民の歓声が、今度はオレンジのヒロインへと向けられた。
「さあ、カムカデ。今度は私が相手ですっ!」
ドリームキャンディの眼が燃える。
清純可憐が汗だくでスカートを押さえてる間に、
オレンジの猛者が水都のために立ち上がった!
「行きますよ!一緒にカムカデを倒しましょう!!」
ドリームキャンディがキャンディチェーンを構え、ミラクルナイトに声をかける。
水都中学一年生とは思えないほど勇ましいその瞳に、ミラクルナイト——いや奈理子は一瞬、安堵の色を浮かべた。
(できれば……お願い、寧々ちゃん……私、今日は無理かも……)
だがそんな心の声を知る由もなく、戦いは激しく、そして勢いよく動き出した。
「ロリホップハンマーッ!!」
ドリームキャンディが鞭を巨大なロリポップハンマーへと変形させ、
くるりと回転して——振り下ろす!
「ぬぉっぶねぇっ!!」
カムカデが紙一重でそれを回避し、地面にドガシャアアアッ!!と土煙が舞う。
噴水の縁が崩れるレベルの威力に、市民からは大きなどよめき。
「奈理子さん、今です!!」
決定的な隙を作ったドリームキャンディが叫ぶ!
「はっ、はいっ!!」
ミラクルナイトが走り出す!
が。
右手はスカートの裾を必死に押さえたまま。
左手だけで構えた拳は、ふるふると震えながらも前へ突き出される。
「えいっ」
ぽすっ。
拳は空を切った。
……いや、ギリギリでカムカデの肩にかすったかもしれない。
「何やってんですか奈理子さん!?そんなんじゃ“奈理子のパンチ”が新商品になっちゃいますよっ!!」
「だ、だって……っ、今日だけは見せられないのっ!!」
必死の形相でスカートを守り続けるミラクルナイト。
しかし、それこそが命取りだった。
「スカートばっか気にしてるからだよォッ!!」
にやりと笑ったカムカデの無数の脚が、ミラクルナイトのブラウスに絡みつく!
「えっ……やだ……っ!!」
びりびりびりっ!
悲鳴とともに破れ飛ぶブラウス!
さらけ出される——真っ白な“奈理子のブラ”!!
「うおおおおおおっ!!」
「ちっぱいは正義!!」
「CMで見たやつ!!」
「やっぱ実物のが破壊力あるな!!」
「これは“奈理子のブラtype実践”発売フラグか!?」
興奮する市民たち。
実況を始める者、写真を撮ろうとスマホを掲げる者、そしてどさくさに紛れてポスターを剥がす者まで現れ始める始末。
「う、うぅ……恥ずかしい……っ」
頬を赤らめながら、それでもスカートだけは死守しているミラクルナイト。
だがその姿を見て、カムカデは完全に余裕モードだ。
「ふはははははっ!!見せてもらったぜ、お前の……!」
「そこまでよッ!」
——突如、緑の光が風をまとって降り注ぐ。
「な、なんだぁっ!?」
「……風が……変わった……っ」
ヒュウウウゥゥ……と吹き込む疾風。
その中に舞い降りたのは、風の戦士——セイクリッドウインド!
「ミラクルナイトが見せていいのは、勇気と誇りだけよ」
静かに、だが凜とした声で広場を見渡すその姿に、どよめく市民たち。
「出たッ!セイクリッドウインド様!!」
「こっちは絶対パンツ見せない戦士だ!!」
「風で全部隠すの、逆にすげぇ……」
ミラクルナイトがスカートを押さえながら振り向く。
「凜さん……!」
「大丈夫、奈理子。今日は私が“風”で包むから」
セイクリッドウインドの手が風を巻き起こす。
その旋風がミラクルナイトの姿をやさしく包み、スカートの裾まで完全に守ってくれた。
「……っ、ありがとうございますっ!」
その瞬間、ようやく戦士としての構えを取り戻すミラクルナイト。
風と光と飴の力で、いざ三人揃って——
カムカデ討伐、再開である!
「凜ちゃんーっ!!」
「凜ちゃーん!!こっち向いてー!!」
「パンツ見せなくても大人気ー!!」
水都公園の噴水広場に、突如として湧き上がる**“凜ちゃんコール”**。
セイクリッドウインド=凜の登場に、老若男女の市民たちが熱狂していた。
高潔な佇まい、鋭くも優しい眼差し——
お勤めがあるため普段はなかなか戦闘に現れない彼女が、放課後タイムの怪人討伐に参戦すること自体がレア。
この三人の同時出動は、ファンにとっては「水都三戦姫、夢のそろい踏み!」である。
「……ご声援、ありがとう~」
凜はやや照れたように、しかし落ち着いた笑顔で片手を小さく振った。
その背後、ブラが丸見えになってしまってるミラクルナイトが、
左手で胸を隠し、右手でスカートを死守する奇妙なポーズで風の陰に隠れている。
「……凜さん、こっちはそれどころじゃないんですけど……!」
ドリームキャンディがジト目で呟いた。
(奈理子さん、今日ほんとおかしい……。たぶん、ブラがどうとか、ショーツがどうとか……)
なんとなく悟った寧々は、そっとミラクルナイトに目をやった。
(うん……今日は……アレな日だな)
「よし、凜さん。さっさとカムカデを倒しましょ!」
ドリームキャンディの怒気混じりの声に、凜がうなずく。
「風の導きに従いましょう。——ガストファング!」
彼女の手に出現したのは、翠色に輝く風の刃・ガストファング!
鋭いが曲線を描く独特の形状は、空気の流れすら切り裂く風の剣。
「こっちも行くよっ!!」
ドリームキャンディのロリポップハンマーが唸りをあげ、
ぐるぐる回転したその勢いが、空気を揺らす。
「ふん、二人がかりかよぉっ!?でも奈理子が戦えねぇなら、こっちの勝ちだろォ!」
なおも余裕綽々のカムカデが巨大な節足を跳ね上げ、襲いかかる。
「行きます!」
「せぇのっ!」
セイクリッドウインドとドリームキャンディ、両者が一斉に飛び出す!
風が吠える!飴が唸る!
「はぁあああっ!」
凜のガストファングがカムカデの脚の付け根に鋭く一閃!
続いてドリームキャンディのロリポップハンマーが、跳ね上がったカムカデの腹部を叩きつける!
「うぐぁああっっ!!」
吹き飛ぶカムカデ。
が、背中の翅を震わせて空中で体勢を立て直す!
「ちぃっ!やるじゃねぇかぁ!」
「風よ、舞え!」
セイクリッドウインドが手をかざすと、噴水から生まれた霧が風に舞い、視界を覆う。
「どこだ!?どこから来るッ!?」
戸惑うカムカデ。
その刹那——
「ここっ!!」
霧の中から突撃してきたドリームキャンディのロリポップハンマーが、
ちょうどカムカデの顔面にガツンと直撃!
「ひょえええええっっっ!!!」
そのまま公園の植え込みまでぶっ飛ばされたカムカデが、木の枝とベンチに絡まりながらうめいた。
「ま、まだ終わっちゃいねぇぞぉ……っ」
ボロボロになりながらも立ち上がるカムカデ。
「……まだ言うんですか?もう“奈理子のブラ”も見たし、帰ってくださいよ」
「ふん……あれは、前菜……だ……。俺は“奈理子のパンツ”が見たいんだぁ……!!」
「——見たら、死にますよ」
そう言い放ったのは、静かに後方から風に守られていたミラクルナイト。
スカートもブラも守り抜いた姿で、彼女は堂々と立ち上がった。
水都の守護神ミラクルナイトが守られるだけではいかないのだ。
「——もう、大丈夫。次は、私も戦う」
「……奈理子さん……」
「……ようやく、正義の味方に戻ったか」
三人のヒロインが再び並び立つその構図に、
市民たちは割れんばかりの拍手と歓声を送った。
カムカデ退散まで、あとわずか!
「ぐ……こ、こんなはずじゃ……!」
カムカデがふらつきながら体勢を立て直す。顔にはロリポップハンマーの形にへこんだ跡、節足は何本か折れ、蚊の翅も片方が千切れている。
「今よ、凜さんっ!」
「——ええっ!」
セイクリッドウインドが両手に構えた**鉄扇“ガストファング”**をすっと広げ、
風を巻き起こすように舞う。
「——風よ、断ち切れ!」
バッ!
風の刃が何重にも重なってカムカデの正面から襲いかかり、目も開けられないほどの空気圧で奴の動きを封じる。
「キャンディっ!!」
「任せてっ!」
ドリームキャンディが跳ねるようにステップを踏み、
ぐるんとロリポップハンマーを振り回して助走をつける。
「ロリホップ……凄い突きッ!!」
「ぎゃあああっ!!」
ボコォォッッ!!
頭に直撃したロリポップハンマーにより、カムカデは地面に埋まるほどの勢いでめり込んだ。
全身に罅の入ったようなヒビが走るその身体。もはや動きはほとんど止まっている。
「——奈理子さん、いまです!」
二人の攻撃でついに訪れた、決着の時。
視線を送られたミラクルナイトは、そっと前に歩み出た。
風が、飴が、彼女のために道を開く。
「……見ててね。これが、私の全て——!」
ミラクルナイトは両腕を広げ、ゆっくりと舞い始めた。
くるり、くるりと白と水色の衣が風にたなびき、
スカートを翻しながらステップを刻んでいく。
「おおっ……!?」
「踊ってる……!」
「あ、奈理子のパンツが見えた!」
市民たちが固唾をのんで見守る中、
その掌に、水都の清き祈りが宿るように――水色の光が集まり始めた。
「リボン……ストライクッ!!」
両手から伸びたのは、流れるような水色の光のリボン。
それはまるで空を泳ぐ天使の羽衣のようにしなやかに、優しく、
傷だらけのカムカデへと吸い寄せられるように巻きついた。
「な、なんだこれはァ……!?」
「あなたは……水都を乱しすぎたのよ!」
巻きついたリボンが強く締まり、
キラキラと水色の粒子がカムカデの全身を包みこむ。
「ま、まさかぁぁあああああっ!!」
そして——
シュゥゥゥン……!
一陣の風に舞い上がった光の粒子とともに、
カムカデの姿は空へと溶けていった。
静寂。
水音だけが残る噴水広場に、
三人のヒロインが揃い立つ。
「やった……!」
「よしっ!」
「……ふぅ、パンツも無事」
最後の一言に、思わず市民たちから笑いがこぼれ、
やがて――
「ミラクルナイト!」
「ドリームキャンディ!」
「セイクリッドウインド!」
「三姫万歳!!」
大歓声が広場を包み込んだ。
こうして、“奈理子のパンツ”危機と“水都の平和”を守り抜いた
ヒロインたちの戦いは、今日も勝利に彩られた——。
勝利の余韻に包まれる水都公園の噴水広場。
青空に舞う花吹雪、観客からは拍手喝采。
「奈理子!最高ーーーッ!!」
「キャンディちゃんも!ステキだったー!」
「凜ちゃん!結婚してー!」
三人のヒロインは並び立ち、それぞれのポーズで勝利を誇る。
が、ふと市民の視線が一点に集中し始めた。
——それは、ミラクルナイトのブラウスが破かれたまま、**「奈理子のブラ」**がしっかりと見えていることに気づいたからである。
「……っ!? う、うそっ……!? 忘れてた!!」
慌てて胸元を押さえるミラクルナイト。だが、すでに時は遅し。
大型ビジョンには、清純可憐なミラクルナイトの“あられもない”後ろ姿とブラのアップが大写しになっていた。
「だ、大丈夫……すぐに変身解けば——」
ミラクルナイトが変身を解除すると、まばゆい光とともに現れたのは…
「……え?」
「えっ?」
「……下着だけ、だと?」
そこには、**「奈理子のブラ&ショーツ」**姿の野宮奈理子が、
ぽつんと広場のど真ん中に立っていた。
観客たちの間に沈黙が流れ、次の瞬間——
「きゃああああああああっっっ!!!」
奈理子は顔を真っ赤にして、しゃがみ込み、両腕で身体を必死に隠した。
「奈理子さん、下着姿でミラクルナイトに変身したんですか?あ、パンツに染みが…」
ドリームキャンディ=寧々がぽつりと呟く。
「……あんた、ここに来る前に何してたのよ?」
セイクリッドウインド=凜がジト目で尋ねる。
奈理子は言葉にならない悲鳴を上げながら、全力でうずくまる。
観客からはどよめきと拍手喝采。
「これが本物の“奈理子のショーツ”か……!」
「今すぐミコールへ走れ!!」
「最高の宣伝効果だーっ!!」
会場には、どこか商魂たくましい声も響いていた。
そのとき、どこからともなく現れたファン代表・成好が、
奈理子の前に白い上着を差し出した。
「奈理子ちゃん!この上着をどうぞ!!」
「……ありがと……」
顔を真っ赤にしながら、そっと羽織る奈理子。
その姿に観客からはまた拍手が起こる。
ドリームキャンディとセイクリッドウインドが両脇から支えながら、
奈理子は小さくつぶやいた。
「うぅ……もう、やだぁ……次の戦いは、ちゃんと制服着てから変身する……」
こうして、“水都の守護神”の名にふさわしくない、
けれど市民の記憶に深く残る勝利の日は幕を閉じた。
(第191話へつづく)












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