DUGA

ミラクルナイト☆第238話

鄙比田温泉の夜は、深く、静かだった。湯けむりが、月明かりを受け、幻想的な光景を織りなしていた。その光景を、柚月と紗理奈とファンユイは、居酒屋のテラスから眺めていた。テーブルの上には、焼き鳥と、刺身と、地酒の徳利が並んでいた。

「では、柚月さん、有給休暇、ご満喫でしたこと」

紗理奈が、酌をしながらそう言った。

「ええ。久しぶりのゆっくりとした時間でしたわ。あなたと、ファンユイと、こうして過ごせたのも、良き思い出ね」

柚月は、グラスに注がれた地酒を一口飲んだ。彼女の表情は、どこか物悲しさを帯びていた。

「柚月姐さん、寂しい顔してるアル。紗理奈と代わって鄙野にいたらいいアルネ」

ファンユイが、唐突に、そう言った。

「いえ、そういうわけではなくて…ここ鄙野の空気、慣れてしまったわ」

柚月は、そう言って空を見上げた。星が、きらきらと輝いていた。

「私も、そろそろ水都に戻りたくなったアルネ」

「ファンユイって一体、何者なの?留学生と思ってたけど、学校には行ってなさそうだし」

紗理奈が、不思議そうにファンユイに語りかける。

「アハハ!それは、企業秘密アルネ!でも、近いうちに水都に行く予定だから、その時、また会おうアル!」

ファンユイは、そう言って徳利を傾けた。彼女のグラスは、空になっていた。紗理奈は、彼女のグラスに酒を注いだ。

「私は、いつまで鄙野にいるんだろ?ここの空気、すっかり体に染みついちゃった」

紗理奈は、そう言って焼き鳥を口に運んだ。鄙野の空気が、彼女の言葉に重みを与えていた。

「それに、大役もあるしね。最近、また新しいペットを増やしたみたいだし」

「新しいペット?」

柚月が、興味深そうに、尋ねた。

「うん。風船とバター、っていう、変わった名前の犬。フーセンバターケンって言うの」

「フーセン…バター犬…面白い名前じゃないの。一体、どんな子なのかしら?」

柚月の瞳に、知的好奇心が灯った。彼女は、ツルバナ女としての顔を、覗かせていた。

「それはね…」

紗理奈は、そう言って、お猪口を傾けた。


居酒屋での別れも終わり、ファンユイは宿泊先へと帰っていった。柚月は、明日の早朝、水都へ向う電車に乗る。彼女は、鄙野の夜空を最後に見上げた。星が、きらきらと輝いていた。彼女の心には、名状しがたい切なさが残っていた。

「さて、お風呂に行かない?」

柚月は、紗理奈に振り返って言った。

柚月と紗理奈は、公衆浴場「鄙比田湯」へと向かった。観光客向けではない、鄙野町民の憩いの場である古びた温泉だ。夜更けの浴場は、客も少なく、静寂が支配していた。木製の柵に囲まれた露天風呂に浸かり、柚月は、満天の星空を眺めていた。

「ああ…気持ちいい…」

彼女は、湯船の中で深く息を吸った。硫黄の香りが、鼻孔を満たした。鄙野の空気は、彼女の体に染みついてしまっていた。彼女は、もう、鄙野の一部になっていたのかもしれない。

「コマリシャスの新しいペット…フーセンバターケン…」

彼女の脳裏に、居酒屋での会話が蘇る。


「紗理奈、教えて」

柚月は、紗理奈に問う。その目は、妖艶な雰囲気でその場を支配するツルバナ女のものだった。
紗理奈は、鄙野を支配する魔界のプリンセス、コマリシャスの監視という任務を帯びていた。コマリシャスの奇行は数多く、その度に、彼女は対応に追われていた。今回の新しいペットも、その一つだった。

「あの子ができた時は、本当に大変だったんだよなあ…」

紗理奈は、そう呟いた。彼女の記憶が、数週間前に遡る。
コマリシャスが、これまでとは違う、新しい魔物を作りたいと言い出した。その素材は、犬。しかし、ただの犬では面白くない。コマリシャスは、風船とバターを素材に加えた。風船のように、膨らむことができる。バターのように、滑りやすい。そんな犬を作りたいと言い出したのだ。

「バターと風船の犬って…何よそれ」

紗理奈は、呆れた。しかし、コマリシャスが、そう言うのであれば仕方がない。彼女は、コマリシャスの忠臣、タンポポタイと共に素材集めに奔走した。風船とバターはその辺で買ってくればいい。しかし、問題は犬だ。犬の素材は、野良犬。それを捕まえるのは一苦労だった。

「タンポポタイ、もう少し早く動けないの?」

「おのれ、紗理奈!吾輩が動くには、時というものがあるのだ!」

タンポポタイは、いつも、のんびりと動いている。彼は、コマリシャスに仕える古参の忠臣だが、その実態は、だだっ子だった。

「もう、本当に…」

紗理奈は、ため息をついた。やっとのことで野良犬を捕まえた。彼女は、その犬をコマリシャスのアジト、古びたアパートに連れて行った。

「コマリシャス、捕まえてきたわよ」

「ふふっ、よくやったなね、紗理奈。タンポポタイも、ご苦労さん」

コマリシャスは、そう言って犬を撫でた。犬は、嬉しそうに尻尾を振っていた。

「さあ、行くよ!今日は特別に、風船とバター、二つ用意したんだ」

コマリシャスがそう言うと、犬の周りに魔法陣が浮かび上がった。

「猫は逃げたのに、犬は逃げないね」

紗理奈は、猫の魔物を作ろうとして失敗したときのことを思い出した。

「良い子だよね。それっ!」

コマリシャスそう言って、魔法陣の中に赤い風船と固形のバターを放り投げた。

「ワンワンワンッ!」

犬が吠える。魔法陣の中では、犬と風船とバターの融合が始まった。

「う、うわぁ…」

紗理奈は、その光景を目を覆いながら見ていた。それは、あまりにもグロテスクだった。犬の体が、風船のように膨らみ、縮みを繰り返していた。バターが、溶け出し犬の体を滑らかにしていた。

「ほらね、出来たよ!」

コマリシャスが、言った。魔法陣が消えると、そこには、一匹の犬の化け物が立っていた。金色の毛並みに、ぷっくりとした体つき。その尻尾は、バターの形をしていた。耳は風船のように膨らんでいた。その名も、フーセンバターケン。

「面白そうね」


柚月が、興味深そうに尋ねた。紗理奈は、湯船から上がっていた。

「可愛いの?」

「う〜ん…コマリシャスへの忠誠は厚いんだけど、タンポポタイとは合わなくてね…フーセンバターケンは犬だから頭いいけど、タンポポタイはバカだから」

「ねぇ、紗理奈。そのフーセンバターケン、私が水都に連れて帰ってもいいかしら?」

柚月は、そう言った。彼女の瞳は、きらきらと輝いていた。

「えっ?それって、コマリシャスはなんて言うかなぁ…」

「大丈夫。コマリシャスの目的は、水都の制圧でしょ。私が道案内してあげるわ」

柚月は、そう言うと、湯冷めに酒を飲んだ。


冷たい風が柚月の髪を撫でた。鄙野の湯気の記憶は遠く、水都郊外の採掘場には、乾いた土と金属の匂いだけが立ち込めていた。巨大なクレーンが錆びついた静寂の中にそびえ立ち、彼女の帰還を祝うかのように微かに軋んでいた。

「お帰りなさい、柚月さん!もう帰ってこないかと思ってましたよ」

元気な声がした。研究部門のトップ、九頭を「九頭先生」と呼ぶ助手、絹枝だった。彼女は白衣の裾を持ち上げ、小走りで駆け寄り、柚月の腕にしがみついた。

「あら、絹枝さん。長い旅だったわ。あなたは相変わらずね」

柚月は穏やかに微笑み、絹枝の背中を優しく叩いた。

「…で、なぜこんな場所に?」

渋い声がした。現場監督の篠原だ。彼は、鋭い眼差しで腕を組んでいた。前任者である柚月の帰還は、彼の居場所を脅かす。眉間には明確な不信が刻まれていた。

「それがね、篠原さん。鄙野から、ちょっと面白い『サンプル』を連れてきたのよ」

柚月はそう言うと、採掘場の砂利の地面に優雅に歩み寄った。彼女の指先が、虚無をなぞるように線を引くと、まるで古いインクが滲むように巨大な魔法陣が赤紫色の光を放って浮かび上がった。

「なっ…!」

絹枝が驚きの声を上げる。篠原は一歩後ずさり、警戒の色を強めた。魔法陣の中心が渦を巻き、光が爆発的に拡散すると、そこに、一匹の犬が立っていた。金色の毛並み。ぷっくりと、風船のように膨らんだ胴体。その尻尾は、まさに溶けたバターそのもので、形を変えながら揺れていた。耳は、まるで風船のようにふくらんでいた。

「…これが、君の言うサンプル?」

九頭が、初めて言葉を発した。彼の声は、氷のように冷たく、澄んでいた。彼の目には、純粋な研究者の好奇心が燃え上がっていた。

「ええ。フーセンバターケン。鄙野のプリンセスが、面白がって作った子よ」

「バター犬…。面白い名前だ。その能力、見せてもらえないか」

九頭の瞳が、捕食者のように光った。
フーセンバターケンは、九頭の視線に気づくと、低く唸り声を上げた。彼は人間が好きではない。紗理奈の知人である柚月の頼みとはいえ、見知らぬ人間たちに囲まれることに、明らかな不快感を示していた。

「…紗理奈の、柚月の頼みなら、仕方ない」

フーセンバターケンは、そう呟いた。彼の目が、絹枝に向けられた。

「美味そうな蜜を出しそうだ」

彼は、バターの尻尾をしなやかに振った。

「ん?」

絹枝が、不思議そうに首を傾げた。
次の瞬間、フーセンバターケンの体が、まるで風船のように、膨らみ始めた。それは、異常な速度だった。体が、どんどん、どんどん、大きくなっていく。金色の毛並みが、まるで太陽のように輝いていた。

「うわあああ!」

絹枝が、悲鳴を上げた。巨大化したフーセンバターケンは、彼女に向かって突進してきた。

「危ない!」

篠原が、叫んだ。しかし、間に合わない。巨大な体が、絹枝を飲み込もうとしていた。
その時だった。

「スベルデスナー!」

フーセンバターケンが、叫んだ。彼の体から、大量のバターが噴出した。滑りやすいバターが、採掘場の地面をベタベタに覆った。

「うわっ!」

篠原が、バターに滑り転んだ。九頭は、冷静にその光景を見ていた。

巨大化したフーセンバターケンは、巨大な風船を吐き出した。その風船の口が、絹枝を頭から吸い込む。

「きゃぁ!」

絹枝の上半身が風船に吸い込まれてしまった。もがく絹枝は、滑りやすい地面の上で、コントロールを失い、横倒しになった。彼女の体は、風船から下半身だけが出ている状態だ。

「こうやって相手の動きを封じるの」

柚月が九頭に説明する。

「素晴らしい!絹枝君のこんな姿が見られるとは」

絹枝は風船から出た脚をバタバタさせてもがいているが、声は聞こえない。風船の中は、外とは遮断されているようだ。

「"バター犬“と名乗るからには、"続き"があるんだろう?」

九頭は、そう呟いた。彼の目には、狂気の光が宿っていた。

「魔物はね、人間の女の愛液が大好物なんですって」

「面白い。絹枝君にとっては災難だが、見せてもらおう」

「フーセンバターケンも、絹枝さんが気に入ったみたいね」

フーセンバターケンは、元の大きさに戻って嬉しそうに尻尾を振っていた。絹枝の下半身の前に立ち、絹枝の白衣とタイトスカートをたくし上げ、ショーツごとストッキングを摺り下げる。

「柚月、君は偉大な魔物を連れて来てくれたな」

九頭は満足気に頷く。
フーセンバターケンは、絹枝の秘部にバターを塗り始めた。

「ひゃんっ!」

風船の中では、か细い悲鳴が響いていた。

「うむ…良い香り…これは美味そうだ」

フーセンバターケンは、巨大な舌で、絹絵の秘書をベロンと舐めた。

「んぐっ…ひぃっ…ぁんっ…!」

風船の中で、喘ぐ絹枝。

「出てきた、甘い蜜

フーセンバターケンは、満足そうに、舌なめずりをした。

「九頭先生…助けて…柚月さん…助けて…」

風船の中の絹枝は必死で助けを求めるが、その声は風船の外には届かない。フーセンバターケンは、彼女の蜜を舐め続ける。

「やはり面白い。君の帰還は、我々に新たな可能性をもたらした。早速、街で暴れさせたまえ。絹枝君へのフォローも任せたよ」

九頭は、柚月にそう言うと去っていった。彼の背中には、喜びと、野心が見え隠れしていた。


水都女学院高校の廊下は、光に溢れていた。生徒たちの笑い声と、下駄箱の開け閉めの音が混ざり合っていた。しかし、1年2組の教室だけは、奇妙な空気が流れていた。

「見た?昨日の動画?」
「見た見た!すごかったよね!あの薬、効きすぎ!」
「うわー、もう見たくない…恥ずかしすぎる…」

奈理子の席は、そんな喧騒の中、静寂に包まれていた。彼女は、自分のスマートフォンを見ていた。画面には、自分自身が映し出されている。ブナシメジ男の胞子を浴び、自らを慰めている姿。鮮明だった。昨日の記憶が、甦る。その羞恥と、無力感が、彼女の胸を締め付けた。

「奈理子さん、大丈夫?」

隣の席のすみれが、心配そうに声をかけてきた。彼女の声は、奈理子の心に差し込む一筋の光のようだった。

「うん…大丈夫…ありがとう、すみれちゃん」

奈理子は、そう言って微笑んだ。しかし、その笑みは虚しかった。

「あの動画、ちゃんと編集されてるものだよ。大部分は何も写ってないんだから」

隣の席のさくらが、フォローした。彼女の言葉も、奈理子の心を軽くするには至らなかった。

「でも…私が、あんな姿を…」

「そんなこと言わないで、奈理子ちゃん!私たち、奈理子ちゃんのこと、応援してるから!」

もう一人の友人、花音が、そう言った。

「ありがとう…みんな…」

奈理子は、小さな声で言った。友人たちの優しさが、彼女の心を少し温めた。
その時だった。

「クラスの皆さん、おはようございます」

凛とした声が、教室の空気を変えた。生徒会副会長の菜々美だった。彼女は、取り巻きの女子数人を引き連れ教室に入ってきた。
奈理子は、身を固くした。また、敵に負けてしまった。菜々美に怒られる。彼女は、そう覚悟した。

「奈理子さん…また、負けたのね」

菜々美は、奈理子の前に立った。彼女の声は、氷のように、冷たかった。

「ご、ごめんなさい…」

奈理子は、俯いた。

「まあ、変な薬のせいだから、仕方ないわ」

菜々美は、そう言った。彼女の言葉は、意外だった。優しかった。

「えっ…?」

奈理子は、驚いて、顔を上げた。

「もうすぐ、一花さんも、紫さんも卒業するわ。それを思うと、こんなこと気にもならないわ」

菜々美は、そう言って窓の外を見た。彼女の瞳には、期待が宿っていた。彼女は、苦手な2人が卒業することで、学校内の序列最上位に君臨しようとしていた。それに、奈理子には手伝ってもらいたいこともある。

「そういえば、奈理子さん。生徒会の送別行事のことだけど…」

菜々美は、奈理子に問いかけた。

「送別行事…?」

「ええ。奈理子さんが提案したのよ。3年生全員に、手紙を書くっていうの」

菜々美は、そう言って、ニヤリと、笑った。

「え、えっと、そうだったね…」

「ええ。だから、誰が誰に手紙を書くかを早く決めないと。一花さんは奈理子さん、お願いね」

「えっ!?私が、一花さんに…?」

「ええ。奈理子さんは一花さんのお気に入りだもの。早速、放課後、生徒会本部に来てちょうだい」

菜々美は、微笑んで、自分の席に、着いた。

「菜々美さんも、だんだん副会長っぽくなってきたね」

すみれが、感心しながら口にした。
奈理子は、呆然としていた。自分の提案が採用された。自分が手伝うことになっていた。それは、喜ばしいべきことだった。しかし、彼女の心は重かった。昨日の敗北が、彼女の心を引きずっていた。
学校の日常は平和だった。しかし、奈理子の心の中では、戦いが続いていた。彼女は、次は負けないと心に誓った。その誓いは、彼女の瞳に強い光を宿していた。


放課後の鐘が鳴り響くと、生徒会執務室には特有の緊張感が漂い始めた。机の上にはリスト、書類、そして3年生一人ひとりの写真が並べられ、まるで作戦会議の準備が整えられたかのようだった。奈理子は、その一角に座り、ただ指先で書類の端を撫でていた。

「奈理子さん、お時間ありますか?」

静かな声がした。新任の生徒会長、和香だった。彼女は地味な印象で、一花のようなカリスマは感じさせない。しかし、彼女の手元は、驚くほど正確かつ迅速に動いていた。

「は、はい!和香先輩」

「ごめんなさい、急に呼び出して。菜々美さんの推薦だから、と。あなたの提案、とても素敵でしたから」

和香は微笑んだ。その笑みは、彼女の地味な印象を打ち消すほど温かかった。奈理子は、一花がなぜ地味に見えれる彼女を信頼していたのか、少しだけ理解できたような気がした。

「ありがとうございます、和香先輩!」

「じゃあ、早速ですが…。一花さんへの手紙、よろしくお願いしますね。一花さんは、奈理子さんのことが大好きだそうですから」

「え、えっと…!」

奈理子は、顔を赤らめた。一花のことを考えると、胸がドキドキする。

「菜々美さん、お願いできますか?中学の頃からのお知り合いなんでしょう」

和香が、菜々美に声をかけた。

「…紫さん…仕方ないわね」

菜々美は、不機嫌そうに答えた。2年生を立てる。それが、彼女のやり方なのだ。
奈理子は、菜々美を観察していた。教室で取り巻きに囲まれている時と違う。生徒会本部にいる時の菜々美は、生き生きとして見えた。彼女は、ここで、本当の自分を見せているのかもしれない。

「よし、これで全員分、割り振り完了ですね!役員以外の生徒にも手伝ってもらいますけど、3年生には気づかれないように注意してください」

和香が、そう言って、立ち上がった。

「お疲れ様でした!」
「お疲れ様です!」

生徒会役員たちが、声を揃えた。

「奈理子さん、帰りましょう」

菜々美が、奈理子に声をかけた。

「あ、うん!」

奈理子は、驚いて、答えた。
二人は、廊下を歩いていた。夕日が、窓から、差し込んでいた。

「奈理子さん、この間のことは忘れなさい。次、勝てばいいのよ」

唐突に菜々美が、そう言った。彼女の声は、柔らかかった。先日のブナシメジ男たちとの戦いのことだ。

「え、えっと…ありがとう…」

「誰だって、負けることはあるわ」

二人は、校門の前に来た。その時だった。

「–緊急放送です–」

学校の放送が、響き渡った。

「–水都タワー前広場に、犬の怪物が、現れました–」

放送部のナレーションは、冷静だった。しかし、その内容は、奈理子の心を凍りつかせた。

「犬の怪物…?」

菜々美が、顔を上げた。

「–現在、警察が現場を、封鎖しています–」

「奈理子さん、変ね…犬の怪人なんて、見たことないわ」

菜々美が、不思議そうに奈理子の顔を見た。奈理子は、何も、答えられなかった。彼女の心には、悪い予感が、駆け巡っていた。確かに、犬の怪人は今までに無い。怪人とは別系統の魔物というものだろうと思った。

「…なんだか、私も、行ってみたくなってきた」

菜々美は、そう呟いた。彼女の瞳には、好奇心が宿っていた。

「菜々美さん、それは、危ない!」

「奈理子さんにとって、汚名返上のいいチャンスじゃない。早く、ミラクルナイトに変身しなさい!」

菜々美は、そう言って、走り出した。

「あ、待って、菜々美さん!」

「奈理子さんは、飛んで行きなさい!」

菜々美の背を見ながら、奈理子はアイマスクを取り出した。


奈理子と菜々美が、学校の放送の放送を聞く少し前–

水都タワーが夕日に染まる頃、その足元の広場は人々の歓声で満ちていた。カップル、家族、友達連れ。誰もが、穏やかな一日の終わりを享受していた。その平穏が真っ二つに引き裂かれた。
地面が、ゆっくりと赤紫色に光り始めた。巨大な魔法陣が、不気味な模様を描き、空間を歪ませる。人々の笑い声が、途切れた。

「な、なんだあれ…?」

「魔法…?」

疑問の声が、ざわめきに変わった。魔法陣の中心が光の渦となり、そこから、一匹の獣が、滑り出すように現れた。
金色の毛並み。ぷっくりと風船のように膨らんだ胴体。溶けたバターのような尻尾。風船のような耳。人々は、一瞬、息を呑んだ。そして、恐慌が走った。

「怪物だあああッ!」

悲鳴が、広場に轟いた。人々は、我先に逃げ出した。フーセンバターケンは、そんな人々を、面白そうに見ていた。彼の興味の対象は、特定のものだけだった。

「美味しそうな匂いが、する…」

彼の目が、女子高生たちに向けられた。
フーセンバターケンは、動き出した。彼の動きは、意外としなやかだった。彼は、次々と女子高生を狙い撃ちにする。

「やめてッ!」

女子高生が、悲鳴を上げる。

「スベルデスナー!」

フーセンバターケンが、叫ぶ。巨大な風船が、彼の口から飛び出した。風船は、女子高生の上半身をすっぽりと飲み込んだ。もがく女子高生。彼女の下半身だけが、風船の外から覗いている。

「きゃあああ!」

「助けてッ!」

広場には、シュールな光景が広がっていた。次々と生まれる、下半身だけの女子高生たち。フーセンバターケンは、そんな光景を満足そうに見ていた。
その中に、一人の女子生徒がいた。彼女は、髪を無造作に一本に縛り、膝下丈スカートを穿いていた。水都高校3年生の、りかちゃん。見た目は、地味だった。

「…あの子、いい匂いがする」

フーセンバターケンは、りかちゃんに気づいた。彼の鼻は、鋭かった。長めのスカートの中に、きっと、素敵な匂いが籠もっているはずだ。驚異的な嗅覚を持つフーセンバターケンは、彼女の緊張と、期待が混ざり合った甘い匂いを嗅ぎ取っていた。

「あ…」

りかちゃんは、フーセンバターケンと、目が合ってしまった。彼女の体は、凍りついた。

「お、お願いします…2次試験が近いんです。見逃してください…!」

りかちゃんは、哀願した。大学受験。共通試験は終わり、2次試験を残すのみとなっていた。水都大学法学部に入学し、弁護士を目指す。だが、そんな彼女の思いは、フーセンバターケンには届かなかった。

「スベルデスナー!」

フーセンバターケンが、叫ぶ。風船が、りかちゃんに向かって、飛んでいった。

「きゃっ!」

りかちゃんの上半身が、風船に飲み込まれた。彼女の脚だけが、空を蹴っていた。
その時だった。

「水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しませんッ!」

凛とした声が、空に、響いた。人々が、顔を上げる。そこには、白い翼、ミラクルウイングを広げるミラクルナイトが、浮かんでいた。彼女の姿は、希望の光だった。

「奈理子だッ!」
「来てくれたんだ!」

人々は、歓声を上げた。逃げていた市民たちが、ミラクルナイトを見るために、続々と戻ってきた。
ミラクルナイトは、眼下の光景に戸惑っていた。広場には、尻だけの女子高生たちが並んでいた。あまりにも、シュールだった。

「…なんなの…この光景は…」

彼女は、思わず呟いた。しかし、戦うべき敵はそこにいた。フーセンバターケンは、りかちゃんの匂いを楽しんでいた。
ミラクルナイトは、息を吸った。彼女は、真っ直ぐに降りていった。着地と同時に、彼女の脚が、奇麗な弧を描いた。ハイキック。フーセンバターケンの頬を捉えた。

「ぶはっ!」

フーセンバターケンは、吹っ飛んだ。

「見た!奈理子のパンツ、白!」

市民の一人が、叫んだ。

「また、白だね!」
「純白の天使、万歳ッ!」

市民たちは、大喜びだった。いつものことだった。ミラクルナイトは、顔を赤らめた。彼女のミニスカートは、いつもそんな風に舞い上がってしまう
蹴り飛ばされたフーセンバターケンは、すぐに立ち上がった。彼は、ミラクルナイトのミニスカートを見ていた。

「…ニヤリ」

フーセンバターケンは、笑った。その目には、欲望が宿っていた。ミラクルナイトは、身の危険を感じた。彼女は、とっさにスカートを押さえた

「見ないで!」

彼女は、叫んだ。

「俺はフーセンバターケン。水都の守護の体液をたっぷり染み込んだ白いパンツ、好い香りだ」

「はぁ…?気持ち悪いこと言わないで!」

「だが、俺が味わいたいのは、水都の守護の体液をたっぷり染み込んだ白いパンツではない。蕩けるような甘い蜜の源泉、そのパンツの中身だ!」

「うぅ…今回も、エロい敵だ…」

ミラクルナイトが怯んだ、その時だった。広場のスピーカーから、美しい声が流れ始めた。

「皆様、ご安心ください。水都の守護神、ミラクルナイトが、我々を守ってくださいます!」

ミラクルナイトの登場を伝えるアナウンスだった。その声は、人々の心を勇気づけた。

「ミラクルナイトッ!」
「奈理子ちゃん、頑張って!」

歓声が広場に轟いた。テレビのカメラが回り始めた。市警の警官隊が駆け付け、広場を囲んだ。黄色いテープが張られた。
ミラクルナイトは、立っていた。彼女は、フーセンバターケンと市民の視線と、期待とを一身に浴びていた。彼女の背中には、白い翼、ミラクルウイングが光っていた。


水都タワーのグラマラスなガラス壁は、夕日を吸い込み、都市全体をオレンジ色に染めていた。タワー前広場を囲む商業施設のバルコニーには、人々がびっしりと詰めかけていた。携帯電話の光が、まるで星のようだった。

「見える!ミラクルナイトが見えるよ!」
「奈理子ちゃん、頑張れー!」

警察が張った黄色いテープの向こう側でも、人垣ができていた。子供が肩車に乗り、恋人が腕を組み、誰もが広場の中央に立つ一筋の光に、視線を注いでいた。ミラクルナイト。
彼女は、そこに立っていた。瑞々しい太股想像力を掻き立てるミニスカート、そして、揺るぎない決意。彼女は、市民の期待と声援とを全身で感じていた。

「…さて、どうする……?」

ミラクルナイトは、小さく呟いた。彼女は、ミラクルウイングをゆっくりと広げた。見た感じ、フーセンバターケンは空は飛べなさそうだ。もし、彼女が、上空から攻撃を仕掛ければ、勝てる。彼女のスカートの中が狙いだとしても、上空からなら防ぐことはできるだろう。彼女は、そう考えた。
しかし、フーセンバターケンは、違った考えを持っていた。

「お、お姉ちゃん、とっても、綺麗なお尻してるね」

フーセンバターケンの周りの地面には、風船から下半身だけを出した女子高生たちが転がっている。彼は、その中の一つ、りかちゃんのスカートを捲った。

「きゃっ!」

風船の中では、か细い悲鳴が響いていた。りかちゃんのスカートの下は、毛糸のパンツだった。フーセンバターケンは、彼女のお尻を、ペンペンと、叩いた

「やめてください、やめてください!」

そんなりかちゃんの声は、風船の外には聞こえない。

「ミラクルナイト。お前が空に逃げたら、この女のお尻は、俺が、ずっと舐めて尽くしてやるよ」

フーセンバターケンは、りかちゃんの尻を撫でて、ニヤリと、笑った。

「…!」

ミラクルナイトは、ミラクルウイングを消した。飛べなくなった。彼女は、悔しそうに唇を噛んだ。卑怯だ。最低な敵だ。

「どうしたんだ、奈理子!」
「なんで、飛ばないんだ?!」

広場の隅から、失望の声が上がった。空飛ぶミラクルナイトのローアングルパンチラを期待していた市民たちは、ミラクルナイトの躊躇を、理解できなかった。
ミラクルナイトは、立っていた。どうするべきか。彼女は、考えていた。その、一瞬の隙だった。

「グラアアアアッ!」

フーセンバターケンが、叫んだ。彼は、ミラクルナイトに向かって跳躍した。彼の体は、風船のように、軽やかに舞っていた。

「スベルデスナー!」

フーセンバターケンの口から、大量のバターが噴出した。それは、まるで、濃密な雨のようだった。ミラクルナイトを目掛けて。

「なっ…!」

ミラクルナイトは、驚いた。しかし、彼女は、動じなかった。

「フェアリーシールド!」

彼女の掌から、水色に輝く半透明の防御壁が展開された。フェアリーシールドは、バターの雨を弾き跳ね返した。直撃は免れた。

「ほう、さすが、水都の守護神」

フーセンバターケンは、着地した。彼の目は、楽しそうに輝いていた。

「こんなもの、どうってことないわ!」

ミラクルナイトは、彼を睨みつけた。

「スベルデスナーは、バターで敵を倒す技ではない。足元を見てみろ」

フーセンバターケンは、そう告げた。

「…?」

ミラクルナイトは、足元を、見た。

「うぅ…これは…?」

彼女の足元は、バターで、濡れていた。地面からは、濃厚なバターの香りが、漂っていた。彼女の周囲には、バターの水溜りが、できていた。

「この地面、滑りやすい…!」

ミラクルナイトは、気づいた。

「そうだよ。お前の美しい脚は、このバターで、ベタベタになるだろう。そして、お前のパンツは脱がされ、俺はお前の密を味わい尽くす」

「う、うそ…」

ミラクルナイトは、顔を赤らめた。彼女の体は、恐怖で震えていた。


広場の熱気は、さらに高まっていた。その中に、一人の少女がやって来た。菜々美だった。彼女は、学校からそのまま走ってきていた。しかし、彼女の行く手を阻むものがあった。

「あ、あの!菜々美さん!すみません!」

水都テレビのレポーターが、彼女に駆け寄ってきた。マイクが、彼女の唇に突きつけられた。

「今、ただいま、生中継しておりますが、お話を、伺えませんでしょうか?」

「えっ、い、いや…私は…」

菜々美は、戸惑っていた。今日はカメラに映るつもりはなかった。しかし、カメラの赤いランプは、すでに、点灯していた。

「おお!あれは菜々美お嬢様だ!」
「奈理子ちゃんの親友、菜々美お嬢様だ!」

広場の一角から、歓声が上がった。菜々美は、市議会議員の娘。それ以上に、奈理子一番の親友として、市民の間では知られていた。

「お嬢様、お嬢様!」
「菜々美さん、頑張って!」

人々の視線が、菜々美に集まった。彼女は、レポーターのマイクを受け取った。彼女は、ここで、逃げることはできなかった。

「あの、菜々美さん。いきなりピンチのミラクルナイトですが、今日は、ドリームキャンディが助けに来るまで、フーセンバターケンのセクハラ攻撃に、耐えることができるでしょうか?」

レポーターの問いかけに、菜々美は、一瞬、息をのんだ。セクハラ攻撃。それは、奈理子の痛いところだった。水都テレビも奈理子ファンも、ミラクルナイトのピンチシーンを期待していた。その熱気に、菜々美は、圧倒されそうになった。

しかし、彼女は、菜々美だった。彼女は、怯まなかった。

「奈理子さんは、勝ちます」

彼女は、そう言った。その声は、小さかったが、揺るぎなかった。

「私は、奈理子さんを信じています。たとえ、どんなピンチに陥っても、彼女は、立ち上がります。それが、奈理子さん、水都の守護神ミラクルナイトですから」

菜々美の言葉が、広場に、響き渡った。

「おおおおお!」
「菜々美お嬢様、最高!」

タワー前広場は、さらに、盛り上がった。
中継車のモニターの前では、ディレクターが、叫んでいた。

「いい雰囲気だ!スタッフ、送風機の用意を!ミラクルナイトのスカートに、カメラを寄せろ!もっと、寄せろ!」

指示は、すぐに実行された。広場の大型ビジョンには、ミラクルナイトのスカートが大きく映し出された。
ミラクルナイトは、フーセンバターケンと対峙していた。彼女は、まだ、バターの水溜りの中で立ち尽くしていた。
その時だった。
風が、吹いた。
送風機からの風が、ミラクルナイトのスカートを舞い上げた

「きゃっ!」
彼女は、驚いて、スカートを、押さえた。しかし、遅かった。

大型ビジョンには、彼女の白いショーツと、太ももが、アップで、映し出されていた。

「見たー!」
「奈理子ちゃんの、白いパンツだー!」

市民たちは、熱狂した。モブの女子高生たちとは違い、奈理子はいつも生パンツなのだ。フーセンバターケンも、ニヤリと笑った。

「くぅ…!」

ミラクルナイトは、慌ててスカートを押さえた。しかし、その隙を、フーセンバターケンは、逃さなかった。

「スベルデスナー!」

フーセンバターケンが、叫んだ。彼は、風船を膨らませ始めた。それは、ミラクルナイトを目掛けて膨らんでいた。

大型ビジョンに映し出されたパンチラは、広場の熱狂をさらに煽っていた。男たちは、鼻の下を伸ばし、女たちは顔を赤らめていた。

「やめてください!」

ミラクルナイトは、水都テレビのカメラに向かって、叫んだ。彼女の声は、悲鳴に近かった。

「戦いに集中しなさい!」

菜々美の声が、響いてきた。その声は、厳しくも温かかった。

「奈理子さん、あなたは水都の守護神でしょ!そんなことで、動揺しないで!」

「…菜々美さん…」

ミラクルナイトは、唇を噛んだ。彼女は、顔を上げた。そして、フーセンバターケンを見つめた。

「それ!」

フーセンバターケンが、叫んだ。彼の口から、巨大な風船が放たれた。

「こんなもの…!」

ミラクルナイトは、息を吸った。彼女は、掌を前にかざした。

「えいッ!」

水色の光弾、ミラクルシャインブラストが、彼女の掌から放たれた。

パーン!

風船は割れた。バターの雨が降ってきた。

「ほう、いい腕前だ」

フーセンバターケンは、笑った。

「ならば、接近戦しかあるまい!」

彼は、ミラクルナイトに向かって、突進した。

「来るなッ!」

ミラクルナイトは、光弾を、連射した。

「えい!えい!え〜いッ!」

光弾の嵐が、フーセンバターケンを襲った。しかし、彼女の足場は、バターの水溜り。彼女は、思うように狙いを定めることができなかった。光弾は、フーセンバターケンのわずかに横をかすめていった。

「まだだ!」

フーセンバターケンは、光弾の嵐を、かいくぐった。彼は、ミラクルナイトに飛び掛かった。

「うぅッ!」

ミラクルナイトは、お得意のハイキックを放った。しかし、彼女は、バターの水溜りを気にしていた。彼女の体は、少しふらついた。彼女の白いパンツが、見えた。クロッチには、奈理子の体液が染み付いていた。それが、アップで大型ビジョンに映し出され、市民の歓声が上がる。

「やめてください、見ないでッ!映さないでッ!」

彼女は、叫んだ。しかし、その蹴りは空を切っただけだった。
フーセンバターケンは、その力の無い蹴りを悠々と交わし、ミラクルナイトのスカートの中に鼻面を突っ込ませた。

クンクン…」

「いやぁ!匂い嗅がないでぇ〜!」

ミラクルナイトはフーセンバターケンの頭をスカートの中から出そうとするが、足場が不安定であるため力が思うように入らない。

「さすが、水都の守護神。濃厚で甘酸っぱい。極上の匂いだ。」

「いやッ!匂い嗅ぐなッ!」

「しかし、これは、邪魔だな」

彼は、そう言うと、ミラクルナイトのスカートを剥ぎ取った。

「きゃあああああッ!」

スカートを脱がされたミラクルナイトはバターの沼に倒れ、白いショーツが広場に晒された
大型ビジョンには、下がパンツ一枚のミラクルナイトが、大きく映し出されていた。

「きゃあああああッ!」

悲鳴は、夕日に焼ける広場に吸い込まれていった。ミラクルナイトの体は、バターの沼に沈んだ。彼女の靭やかしな脚と白いグローブとブーツが、黄色く染まっていく。辛うじて、純白のショーツは液体バターに触れることを免れたが、その屈辱に耐える可憐な姿に、市民は息を呑んだ。

「フハハハ!」

フーセンバターケンは、勝ち誇って笑った。

「みろ、水都の守護神、よい格好だ!」

彼は、倒れたミラクルナイトに近づいた。

「さあ、俺のものになれ!」

しかし、ミラクルナイトは、まだ、完全には諦めてはいなかった。彼女の身体が、水色に輝き始めた。バターの沼から立ち上がろうとしていた。バター汁など、水で洗い流せばよい。彼女は、ミラクルアクアティックラプチャーの水のオーラを漂わせ始めた。

「お、おう…なんだか、すごい雰囲気になってきたな」

フーセンバターケンは、一瞬、戸惑った。

「ミラクルナイトが、何かを、やろうとしている!」
「見ろ、あの光だ!」

広場の熱気が、さらに高まった。
しかし、フーセンバターケンは、彼女の狙いを見抜いていた。

「待てよ、お前」

彼は、風船に捕らえられ、下半身だけを晒す女子高生たちを指した。

「もし、お前が、よからぬことをするなら、この女たちを、辱めてやる」

彼は、りかちゃんの毛糸のパンツを、撫でた。

「やめてください、やめてください!」

風船の中では、りかちゃんが叫んでいるが、外には聞こえない。

「うぅッ…!」

ミラクルナイトは、水のオーラを消した。彼女は、フーセンバターケンの責めを受け入れるしかなかった。
ミラクルナイト絶体絶命のピンチ。
水都テレビの中継も、それを見守る市民も、ドリームキャンディが救援に駆けつけるまで、ミラクルナイトがどんな責めを受けるのか、期待に胸を膨らませていた。


その頃、水都中学校。
学級委員長の寧々は、学校のHPに載せる写真の撮影のため、放課後も学校に残っていた。校庭の片隅に咲く一輪の花。彼女は、シャッターを切った。

「…ん?」

彼女は、スマホの画面を見た。緊急速報メールが届いていた。

「–水都タワー前広場に、犬の怪物が、現れました。ミラクルナイトが交戦中–」

「奈理子さんが…!」

寧々は、顔を上げた。しかし、彼女は、動けなかった。写真撮影が終わっても、騒ぎが落ち着くまで、校舎で待機となってしまったのだ。

職員室のテレビでは、スカートを脱がされたミラクルナイトの姿が、映し出されていた。

「奈理子さん…また、スカートを脱がされちゃって…」

寧々は、握りしめた。彼女は、ミラクルナイトの助けに行きたかった。しかし、寧々がドリームキャンディであることは、秘密だった。

「私が行かなくても、凜さんがいるし、いっか…」

彼女は、ミラクルナイトの健闘を、祈るしかなかった。


フーセンバターケンの笑い声が、バターの香りと混ざり、広場の空気を濁らせた。彼は再び風船を膨らませ、それをミラクルナイトの頭上から被せた。パン、という乾いた音がして、彼女の上半身は、半透明の膜の内側に閉じ込められた。

「フハハ!見ろ、このコレクションをな!」

フーセンバターケンは、悦に入って見得を切った。風船から下半身だけを出した四人の女子高生たち。そして、その中央に、スカートを脱がされ白いショーツだけを身につけたミラクルナイト。彼女の下着の白さは、他の女子高生たちのスカート下にある毛糸のパンツ、スパッツなどよりも、際立っていた。

「さすがは水都の守護神。他の女とは輝きが違う。最高の一品だ」

フーセンバターケンは、うなずいた。彼は、ミラクルナイトの元へ這っていった。彼は、奈理子のショーツに鼻面を近付けた。そして、深く、息を吸い込んだ。

「クンクン…なるほどな。戦いの汗、そして、少女の恥じらい。絶品だ」


風船の中のミラクルナイトは、身動きもとれなかった。
風船の中からは、外は見えない。ゴムの膜が、視界を完全に遮断している。外の音も聞こえない。彼女が聞こえるのは、自分の不安げな心臓の鼓動だけだ。下半身は風船の外。上半身と下半身を分断された奇妙な格好。彼女は、自分の下半身がどのような状態なのか確認できない。
もどかしさが、募る。
自分の顔の見えない下半身が、犯されるかもしれない。その不安と恐怖に、彼女の体は小さく震えていた。

うっ、と、尻が、掴まれた。

ショーツ越しの股間に、何かが、当たった。

次は、暖かい空気。大切な箇所の匂いを嗅がれている。ミラクルナイトは、屈辱と羞恥に、涙を流した。

ビクン、と、風船の中で、ミラクルナイトの上半身が跳ねた。

ベロン、と、温かいもので、ショーツ越しに股間を撫でられた。

ショーツが、掴まれたことが分かった。

ショーツが、太股まで下げられた

と同時に、冷たい空気を股間に感じる。スカートが無いことに、改めて気づかされた。

暖かいものが、奈理子の大切な箇所を、直接、撫でた。ミラクルナイトは、舌だと分かった。

ペロペロ、と、フーセンバターケンの舌は舐める。ミラクルナイトは、感じてはいけないと、耐える。しかし、耐えようとすればするほど、喘ぎ声が大きくなる。

「んっ…!あ…あんッ!」

舌が、奈理子の中に挿入された。

フーセンバターケンのが、奈理子の膣襞を、掻き回す。

ミラクルナイトは、性的快感が、最高潮に高まり、イッってしまった

その瞬間、潮を吹いてしまった

「う、うううッ!」

ミラクルナイトは、絶頂の余韻に浸っていた。しかし、フーセンバターケンの舌は、まだ、止まらない。まるで、奈理子の愛液を、全て、舐め尽くす、勢いだった。
敏感すぎるミラクルナイトは、再び絶頂してしまう。

「ひゃッ!あッ!ひゃああああッ!」


風船の中のミラクルナイトは、絶頂のたびに体を弓なりに反らせた。そのたびに、風船の外の彼女の尻は、無様に、痙攣した。その姿が、大型ビジョンに映し出されていた。

「おおおッ!イってる!奈理子がイってる!」
「奈理子ちゃん、犬に舐められて、気持ちいいんだ!」

市民は、熱狂した。菜々美は、目を、覆った。


その頃、水都中学校の職員室。寧々は、テレビの画面から、目をそらせることができなかった。

「奈理子さん…私が助けに行かなかったせいで…」

寧々は職員室のドアに向かった。

「杉原、どこに行く?まだ帰っちゃダメだぞ!」

背後から先生が呼び止める。

「お手洗いです!」

寧々は職員室を飛び出した。


風船の中のミラクルナイトは、もはや、何も感じていなかった。強制絶頂イキ地獄に、彼女の精神は耐えきれなかったのだ。彼女の上半身は、風船の膜にもたれかけたまま動かなかった
だが、彼女の下半身は、悲しげに放尿していた。
金色の液体が、彼女の恥毛から太股と摺り下げられたショーツを濡らし、バターの沼に滴り落ちていく。それは、彼女の完全な敗北を物語っていた。
タワー前広場の市民は、風船から尻だけを出した水都一の美少女奈理子、水都の守護神ミラクルナイトの失禁敗北の姿に唖然としていた。歓声は、ぴたりと止んだ。誰もが、言葉を失っていた。
奈理子の羞恥の源泉を味わい尽くして、フーセンバターケンは、大満足げに舌なめずりをした。

「フハハ、見事だ。最高の味わいだった」

ミラクルナイトの放尿が終わると、彼は、尿で濡れた奈理子の秘部をお掃除するかのように舐め回した。そして、

「また舐めに来てやるぜ」

そう言って、奈理子の尻を叩いた。

その時だった。
ピューン、という、高らかな、音色が、響いた。
緑色の光とともに、セイクリッドウインドが降臨した。手には巨大な鉄扇、ガストファング。

「凜ちゃん来たー!」
「凜さんの生脚、神々しい!」

ようやくやって来た風の戦士に、タワー前広場は、再び、歓声が沸き起こった。
セイクリッドウインド、風間 凜、23歳。彼女も、奈理子に劣らぬ人気を誇る。緑をベースに銀の装飾をあしらったコスチューム。そして、スカートの中は、ミラクルナイトと同じく生パンツだ。

「…女の子にこんな格好をさせるなんて…」

セイクリッドウインドは、着地と同時に、呟いた。彼女の視線が、風船から下半身を突き出した五人の少女に、注がれた。

「奈理子は…あれね」

セイクリッドウインドは、一人、お尻丸出しの少女に目を留めた。太股の白いショーツは、奈理子の愛用であり、ブーツは紛れもなく、ミラクルナイトのものだ。彼女が守るべき少女が、晒された姿だった。

「この犬め…」

セイクリッドウインドは、フーセンバターケンに向き直った。彼女の瞳からは、冷たい光が放たれていた。

「アンタが、奈理子を、こんな姿にしたのね」

彼女は、静かに言った。しかし、その声には、抑えきれない怒りが込められていた。

「奈理子のスカートを脱がすことは許しても、奈理子のパンツを脱がすことは、許さない」

「フン、お前が噂の"コスプレおばちゃん"か?ならば、お前も、その格好で地に這いずるがいい!」

フーセンバターケンが、叫んだ。

「なんですって…!」

セイクリッドウインドは、怒りに、顔を歪めた。

「私は、神様に仕える巫女。あなたみたいな、犬めに、辱められるのは、ごめんだわ!」

「フハハ!ならば、これを、食らうがいい!」

フーセンバターケンは、巨大な風船を膨らませ始めた。それを、セイクリッドウインドに向けて放った。

「風よ、私の怒りを、運べ!」

セイクリッドウインドは、ガストファングを広げた。彼女は、ガストファングを振るい、風の刃を放った。

「プリーステスラース!」

ガストファングが生み出す風が、セイクリッドウインドのスカートを捲り上げる。

「おーっ!凜ちゃんのパンチラ!」
「綺麗なお姉さんの白パンツサイコー!」

大歓声の中、風の刃は、風船を真っ二つにした。

「なにッ!」

フーセンバターケンは、驚いた。

「ふふんッ!見た?これが"巫女の怒り"よ!」

セイクリッドウインドが観客を見渡す。

「凜ちゃんのパンツ見たよー!」
「パンツを見せてからのドヤ顔、エロすぎる!」

市民は狂喜し、セイクリッドウインドはそれに満更でもなさそうな顔をしていた。

「なっ…なによ、その視線!私は、神に仕える巫女なのよ!」

セイクリッドウインドの登場で、タワー前広場は沸き返っていた。フーセンバターケンは、興奮の渦の中で、丸出しの奈理子の大切な箇所に目をやった。
“水都の守護神"の愛蜜を存分に味わい、すっかり満足していた。あの、絶頂のたびに痙攣する尻。潮を吹き、失禁する無様な姿。これ以上のご馳走はあるまい。
目の前の"コスプレおばちゃん"の蜜も、美味そうだ。成熟した女の濃厚な味わい。だが、彼女は、"水都の守護神"よりも、ずっと手強そうだ。あの鋭い眼光。風と共に舞う、しなやかな身のこなし。ただの戦士じゃない。油断は禁物だ。
フーセンバターケンは、奈理子の蜜で、彼の腹は満たされていた。満腹状態では、動きも戦意も鈍る。あの"コスプレおばちゃん"の蜜は、次回、空腹のときにいただこう。そう心に決めた。
フーセンバターケンは、退却を決めた。

「フン、今回は、見逃してやる!」

彼は、そう言って、鄙野に繋がる魔法陣を出現させようとした。

その時だった。
オレンジ色の光とともに、

「奈理子さんを虐める者は、中学戦士ドリームキャンディが許しません!」

と、ドリームキャンディが、タワー前広場に降臨した。手には、キャンディを連ねたキャンディチェーン。
ドリームキャンディ、杉原寧々、13歳。オレンジを基調とした、重厚なドレスのコスチューム。そして、彼女のスカートの中は、生パンツではなく、黄色いブルマーだ。

「やっとキャンディが来たぞ!」
「今日はヒロイン3人の競演だ!」

タワー前広場の熱気は最高潮に達した。

「中学戦士…?お前が、コマリシャス様たちが言う"ガキンチョ"か?」

フーセンバターケンは、ドリームキャンディを見て、舌なめずりをした。

「ガキンチョですって?!」

「まあまあ」

セイクリッドウインドは、間に、割って入った。

「これを見て」

セイクリッドウインドは、地面に所々あるバターの水溜りを指した。

「液体のバター?」

ドリームキャンディが首を傾げる。寧々が職員室のテレビで見たときは、ミラクルナイトは既に風船に捕まっていたため、「スベルデスナー」のことはは知らない。

「これが、あの犬の能力みたいね」

「滑りますね。凜さんと同じヌルヌル系だ」

ドリームキャンディは、しゃがんでバターを指ですくった。

「あとは、あの風船。犬だから、牙と爪にも注意した方がいいかも」

セイクリッドウインドが、フーセンバターケンの能力を伝える。

「分かりました。私に任せてください」

キャンディチェーンが、フーセンバターケンにヒットしたかに見えた。

「くっ!」

紙一重で避けたフーセンバターケンは、飛んだ。

「今度会ったときは、お前たちも守護神と同じ目に遭わせてやる!」

彼は、そのまま群衆を飛び越え、逃げていってしまった。

「やった!」

ドリームキャンディは、ガッツポーズをした。しかし、彼女の喜びも束の間だった。彼女は、風船から尻を出すミラクルナイトの姿に気づいた。

「奈理子さん…また、エッチなことをされて…お漏らしもしたんだ…」

そう呟き、奈理子の大切な箇所と太ももまで下げられた濡れたパンツをに目を向けた。そのとき、

パン!パン!パン!パン!パン!

セイクリッドウインドが、ガストファングで五人の少女の上半身を閉じ込める風船を叩き割る。
風船から解放された五人の少女。だが、一人、ミラクルナイトだけは失神していた。

「もう大丈夫よ」

セイクリッドウインドが、りかちゃんたち四人の少女に声をかける。少女たちは、魔物に襲われ、風船に閉じ込められた恐怖でまだ震えていた。

「犬はもう追い払いましたから!」

ドリームキャンディも、四人の少女に笑顔見せた。

「奈理子さん!」

菜々美は、警戒線を潜り抜け、ミラクルナイトの元に駆け寄った。

「奈理子さん、起きて!」

しかし、ミラクルナイトは起きない。彼女の下半身は、バターと自身の体液に濡れていた。
菜々美は、ミラクルナイトのスカートを探した。しかし、どこにもない。風に飛ばされて飛んでいってしまったのか。

「奈理子さんのパンツは…」

菜々美は、ミラクルナイトの太股にずり下げられたショーツを見て、顔を赤らめた。奈理子の象徴とも言える純白のショーツが、ずぶ濡れになっていた。

「あの…ありがとうございます」

ようやく落ち着いたりかちゃんが、セイクリッドウインドとドリームキャンディに頭を下げた。他の女子高生も、二人のヒロインにお礼を述べる。

「怖かったよね」

セイクリッドウインドは、りかちゃんの肩を撫でた。

「貴方たち、奈理子さんにも、お礼を言いなさい」

菜々美が、りかちゃんたちに言った。

「奈理子さんは、貴方たちをあの犬から守るために、こんな姿にされたのよ」

彼女は、おしっこで濡れた"奈理子のショーツ"をミラクルナイトに穿かせようとしていた。

「す、すいません…」

りかちゃんは、泣きそうな顔でミラクルナイトにお辞儀をした。

「ご、ごめんなさい…」
「本当に…ごめんなさい…」

他の女子高生も、謝った。

菜々美は、ショーツをミラクルナイトに穿せた。

「菜々美さん、市民を守ることが、奈理子さんと私たちの使命ですから、お礼なんていいんですよ」

ドリームキャンディが、ミラクルナイトを抱く菜々美の横に座る。

「でも、奈理子は…」

不満気な菜々美。

「菜々美さん、奈理子のために言ってくれて、ありがとう」

セイクリッドウインドは、そう言って、ミラクルナイトの髪を撫でた。

「…奈理子さん、早く起きなさい…」

菜々美は、ミラクルナイトの手を握った。

「菜々美さーん!」

水都テレビのレポーターの声がした。

「あ〜面倒だ。奈理子は私が連れて帰るから、貴方たちも早く帰った方がいいわ。菜々美さんも」

セイクリッドウインドは、りかちゃんたちと菜々美にそう告げると、ミラクルナイトを肩に担ぎ上げた。

「私も学校に戻らなきゃ!菜々美さん、さようなら」

ドリームキャンディも立ち上がった。
緑とオレンジの光になって飛んでいく二人のヒロイン。

「風船の中はどんな感じでした?」

リポーターが、りかちゃんたちにマイクを向けた。

「菜々美お嬢様ー!こっち向いてー!」
「水高の子、受験頑張れよー!」

タワー前広場の市民が、菜々美たちに声援を送る。その場は、フーセンバターケンを撃退し、一件落着の雰囲気で満たされていた。

「今日は、あの子たちを守るためだったから、負けても仕方ないか…」

菜々美は、市民に微笑を見せながら、小さく頷いた。

(第239話へつづく)