DUGA

ミラクルナイト☆第64話

水都第一小学校6年3組の教室、午後の柔らかい日差しが窓を照らしていた。教室の片隅に、一人佇む少女の姿があった。その名は寧々。彼女の表情は、普段の明るさとは裏腹に、深い陰が覆っていた。

昨日の戦の激しさ、痛み、そして市民の目の前での敗北。そんな重たい記憶が彼女の心を圧迫していた。その中でも、特に彼女を苛んでいたのは、ミラクルナイトが身を挺してドリームキャンディを守ってくれたのに、ミラクルナイトの敵を打つどころか返り討ちにされてしまったことだった。

彼女がその思いを解放するべき相手、大谷はすでに寧々から距離を置いていた。その冷たさが寧々の胸をさらに苦しめていた。

突如、隆の声が彼女の耳に飛び込んできた。

「気にするなよ、姉ちゃんなんかスカート脱がされてんだぞ。」

彼の声は軽く、しかし心からの言葉であったことが伝わってきた。寧々がドリームキャンディであることを知っているのは大谷と隆だけだった。

寧々の視線は、彼に向かった。

「奈理子さんはどうしてるの?」

と、彼女の声は小さく震えていた。

隆は少し笑って言った。

「普通に今朝学校に行ったぜ。姉ちゃんは負けるのには慣れてるからな。寧々も深く考え込むな。」

寧々はその言葉に感謝し、心の中でほっとしていた。しかし、その安堵も束の間、彼女は瞬時に寂しさに包まれてしまった。奈理子にはライムや鈴といった相談相手がいるが、大谷と連絡が取れない自分には誰もいないな、と思い寧々はふと寂しくなった。彼女には、心の中の声を共有できる相手が欲しかった。

「悩みがあるなら聞いてやるぜ。」

隆の言葉が再び彼女の耳に届いた。

「俺は水都の守護神ミラクルナイトの弟様だからな」

と、彼は得意げに笑った。

寧々は苦笑しながらも、彼の言葉に心を開いていた。

「悩みなんかない」

と言いつつ、彼女は隆の存在に安堵していた。彼の少し頼りない笑顔の中に、寧々は微かな希望を見つけたのだった。


雨が降る街を見下ろす高級マンションの一室に、勅使河原と凜の姿があった。部屋は豪華で洗練されており、金持ちの趣味が感じられる。そのマンションの所有者は勅使河原で、凜はその部屋に住んでいるという複雑な関係だった。

ベットに横になり、勅使河原の表情はどこか満足そうだった。彼の心中には、シオマネキ女として名を馳せた渚に対する驚きと興奮が渦巻いていた。彼が思っていたよりも、見た目が地味な渚は戦闘能力が高かった。特に、彼女が牛島と組むことで見せた力は印象的で、勅使河原の中で期待が膨らんでいた。

そんな彼の考えに、ふと凜が割って入った。彼女は勅使河原に寄り添い、媚びた瞳で彼を見上げた。しかし、勅使河原の目に映る凜は、美しいが中身のない人形のように映っていた。彼の中で、渚の真摯さと凜の虚しさが比べられていた。

勅使河原は、凜に優しい表情を見せながらも、心の中では彼女の将来を冷徹に計算していた。美貌とは裏腹に、彼にとって彼女の価値は薄れつつあったのだ。

部屋の中には、雨の音と二人の息遣いのみが響いていた。しかし、その静寂の中には、数多くの感情と計算が交錯していた。


陽射しは熱く、清流大学のキャンパスを照らしていた。6月、夏の序章ともいえるこの時期、学生たちの多くが夢と希望を胸にリクルートスーツを身に纏っていた。中でも、凜は特に目立つ存在だった。美しい彼女は、アイドル活動と両立しながらも、就活に汗を流していた。

しかし、それが容易な道でなかったことは、彼女自身が一番知っている。これまでの就活は全敗。勅使河原から独立するためには、とにかく内定が必要だった。

彼女の足取りは重かったが、その前に突如として現れたのは、見覚えのある男。ライブ会場での彼の姿を思い出す。ただし、握手やチェキの記憶にはない。

”ストーカーかもしれない”

ふとした疑念が頭をよぎり、凜は反射的に別の道へ足を運んだ。少し走って振り返り男が見えなくなったことを確認してホッとする。

しかし、運命とは簡単には逃れられないもの。息を整え、ほっとした矢先、前に立ちはだかったのは、その男、大谷だった。

「ようやく見つけたよ、ナメコ姫」

その男大谷が言った。警戒し後退りしながら

「誰?スライム男の仲間?」

と凜。

「いや、強いて言えばドリームキャンディの仲間かな」

と大谷。スライム男はミラクルナイトの仲間。ドリームキャンディはミラクルナイトの仲間。ならばスライム男はドリームキャンディの仲間ではないのかと考える凜の心を読んだのか、大谷は

「ドリームキャンディはスライム男と何の繋がりもない」

と言った。どちらにしろ勅使河原の敵だ。大谷の意図がわからず

「私に何の用?」

と凜は問う。

「君には不思議な力が宿っている。その力はナメコ姫では発揮できない。僕たちの仲間にならないか?」

彼の言葉には意味が隠されていた。スライム男、ドリームキャンディ。複雑に絡み合う関係性。凜の頭は混乱を極めたが、大谷の言葉によって、彼がスライム男とは別の存在であることが明らかになった。

大谷の真意は、凜の特別な力を求めるものだった。前にもスライム男から同じような誘いがあったことを思い出し、

”私って結構もてるな”

と凜は思った。しかし、勅使河原に生活させてもらっている以上、勅使河原の敵になることはできない。彼女は一瞬で機転を利かせた。

「無理な相談ね。私はナメコ姫よ」

と、彼女は固辞する。

大谷は彼女の返答を受け入れるように、

「考えておいてくれ」

手を振って後ろ姿を見せて去って行った。彼の去った後、凜は一人残され、心の中で独り言を呟いた。

「これ以上、私を面倒なことには巻き込まないで…」


水都公園の町内放送が、平静を乱す大ニュースを告げた。シャコ男の出現だ。

寧々は放課後の風を感じながら家路を急いでいた。耳に入ってきたその放送に、彼女の心は瞬く間に緊張に包まれた。敵、ウミウシ男とシオマネキ女との過去の戦いの記憶が蘇る。彼らへの敗北、その屈辱…。それを晴らすため、水都公園への足取りは重く、しかし確実に早くなった。

違う道を進む奈理子も、その放送の内容に気付いた。彼女の心の中には寧々と同じく、戦う決意が燃え上がった。だが、その前に突如現れたのは、一見普通の少年、アリ男だった。

「お姉さん、一緒に遊ぼ」

と、純真そうな顔で語りかけてきた彼。しかし、その目の奥には何かを隠しているような、狡猾さを感じる。

「今日こそは素のお姉さんで遊びたいな」

と、さらに不穏な言葉を投げかける彼に、奈理子のアラートは最大に鳴った。

「いやよ!」

必死にその場から逃れようとする奈理子。

”何処かに隠れてミラクルナイトに変身しなきゃ”

と思い必死で逃げる奈理子。しかし、

「今日は変身させないから。ミラクルナイトのお姉さんよりも、中学校の制服のお姉さんがお姉さんらしいからね」

と少年はアリ男に姿を変え、背を向けて逃げる奈理子に飛びついた。

「いや!離して!」

ともがく奈理子だが、アリ男の力の前では奈理子の力は全く無力だ。彼の強大な力の前に、奈理子はなす術もなく捕らえられてしまった。

「お姉さん、今日も白いパンツだね」

と紺色の制服スカートから覗く奈理子の白いパンツを見て笑う。

「くぅ…!」

アリ男に覆い被され何もできない奈理子。

「制服のスカートも脱がせちゃお」

とアリ男は奈理子のスカートを脱がしにかかる。

「やめてー!」

という奈理子の叫びも虚しく、奈理子のスカートは脱がされてしまった。

「上はセーラー服、下はパンツって間抜けな格好だね。お姉さんによく似合ってるよ」

大笑いするアリ男。アリ男の揶揄混じりの言葉に、彼女の心は深い屈辱に打ちひしがれた。

水都公園のどこかでは、シャコ男との戦いが繰り広げられていることでしょう。奈理子と寧々、それぞれの戦いが、この町の運命を左右することになるのか…。


水都公園は異様な静けさが広がっていた。しかし、その中心で暴れ狂うのは、他でもないシャコ男だった。甲殻の光沢と邪悪なオーラで公園を支配している彼の前に、一筋の光が突如として現れた。

「これ以上、この公園を荒らすのはやめなさい!」

と宣言するのは、ドリームキャンディ。彼女の手には、キャンディチェーンが輝いていた。

シャコ男は一瞬その場に立ち尽くしたが、すぐにその邪悪な笑みを浮かべ、ドリームキャンディに挑む形で立ちはだかった。

ドリームキャンディは迅速にキャンディチェーンを振るい、シャコ男に一撃を加えようとした。しかし、シャコ男の硬い甲殻に当たったキャンディチェーンは、まるでゴムのように弾かれてしまった。甲殻の防御力は予想を超えていた。

逆に、シャコ男はその隙を突き、超高速パンチを連発。ドリームキャンディは必死にそれを避け続けるものの、徐々に追い詰められてしまった。

公園の木々やベンチを利用して、シャコ男の攻撃から逃れようとするドリームキャンディ。しかし、シャコ男の速さと持続力は圧倒的で、彼女の身体に次第に疲労が見え始めた。

シャコ男は、さらに特殊な能力を発動。シャコの特徴でもある、強力な鋏を巨大化させ、ドリームキャンディの動きを封じ込めようとした。彼女の身体を狙って繰り出されるその巨大な鋏は、まるで死神の鎌のように迫ってくる。

「これが最後だ、ドリームキャンディ!」

シャコ男の目には勝利の確信が浮かび、彼の鋏がドリームキャンディに迫った瞬間、彼女の背後には絶体絶命のピンチを感じさせる暗闇が広がっていた。


水都公園の影の中、奈理子はアリ男の圧倒的な威圧感に押しつぶされそうだった。彼の背後からは冷たくものどくなオーラが立ちのぼってきた。

アリ男が腰を下ろし、奈理子の上に覆い被さると、彼女は息を詰めて耐えた。彼の目は、どこか興奮しているようでもあり、同時に残酷な輝きを放っていた。

「今日はどうやって遊ぼうかな。お姉さんを眠らせてお人形さんみたいにして遊ぶか、お姉さんと喋りながら遊ぶか…」

とアリ男は囁くように言った。

奈理子は力を込めて叫び返した。

「どっちも嫌よ!スカート返して!」

しかし、アリ男はゆっくりと首を振った。

「お姉さん、楽しくないの?」

と、彼はあざ笑うように問い掛けた。

「当たり前でしょ!」

奈理子の怒りはピークに達した。しかし、その怒りがアリ男を動かすことはなかった。彼は手に持っていた小瓶を指で弄びながら言った。

「煩いな。やっぱりお姉さんには寝てもらお。」

アリ男からは、酸のような強烈な匂いが漂ってきた。奈理子はその匂いに顔をしかめ、身をすくめた。

「やめて!今の私はミラクルナイトじゃないのよ!そんなものかけられたら…」

彼女の瞳には絶望と恐怖が混ざり合っていた。

アリ男は瞬時に奈理子の弱点を見抜いていた。彼は口角を上げて微笑んだ。

「じゃ、大人しく僕の言うこと聞きなよ、お姉さん。」

「わ、わかったわ…」

奈理子はアリ男の目の前で、その力に圧倒される形となった。彼の要求に従わざるを得なかった。奈理子の胸の中で、彼女自身の心が静かに泣いていた。


水都公園の戦場で、ドリームキャンディとシャコ男の戦いが繰り広げられていた。シャコ男の鋭い鋏は、空気を切る音を立てながらドリームキャンディのドレスを狙ってきた。彼女はそれを紙一重で交わしたものの、その鋏が紡いだ轍が、彼女のドレスを縦に裂いた。

しかし、ドリームキャンディは恥じることなく、ドレスの下のスパッツ型のシングレットを露わにし、シャコ男に立ち向かった。彼女のコスチュームはミラクルナイトのようにコスチュームを裂かれても下着が剥き出しにはならない。そのため、ドレスが裂かれても完全な姿をさらすことはなかった。

だが、シャコ男の攻撃は留まることを知らず、繰り出される鋏の一撃一撃が、彼女の反撃の糸口を塞いでいった。大谷の存在が彼女にとってのアドバイザーのようなものだった。その彼がこの場にいないため、ドリームキャンディは独りの力でどう戦うべきかを模索していた。

シャコ男の尾扇からの突風により、彼女は地面を転がるように吹き飛ばされた。その瞬間、彼女の心に絶望の影が忍び寄った。シャコ男には全く隙がない。打撃力があり防御力も高い。そして速い。反撃の糸口すら見いだせないドリームキャンディ。

”また負けてしまう…”

そんな思いが頭をよぎる中、ある声が彼女の耳に届いた。

「しっかりしろ、ドリームキャンディ!」

声の主は隆だった。彼は遠くから手を振りながら、彼女にエールを送っていた。

「シャコなんかキッチンバサミで脚を切ればいいんだよ!」

と彼は大声で叫んだ。

”茹でたシャコならそれでいいけど…”

と思ったドリームキャンディ。しかし、その言葉にドリームキャンディは新たな希望の光を見いだした。

”高速パンチは無理だけど、鋏を振り回している今ならできるかもしれない”

そして、再びシャコ男に立ち向かい、彼の鋏の一撃を避けつつ、キャンディチェーンで彼の腕の付け根を狙った。シャコ男が悲鳴を上げる中、彼女はその瞬間を捉え、彼に向かってキャンディシャワーを放った。

七色の甘い光線がシャコ男を包み込むと、彼はその光の中で徐々に姿を消していった。そして、力を使い果たしたドリームキャンディは膝をつき、息を切らして地面に崩れ落ちそうになった。その時、隆が彼女の身体をしっかりと支え、彼女を抱きしめた。

戦いを静かに見守っていた市民たちは、2人の勇姿に感動し、彼らに向けて温かい拍手を送った。水都公園は、新たな伝説の一ページを刻み込むこととなった。


公園の隅、一本の大木の陰でベンチが置かれていた。そこに座っているのは制服姿の奈理子。彼女の瞳からは、静かに涙がこぼれていた。柔らかな日差しは彼女の涙をキラキラと輝かせていたが、その涙の背後には深い悲しみと怒りが隠されていた。

アリ男。彼はまるで子供のような無邪気さで、奈理子の身体に手を伸ばし、服を脱がすとその体を弄ぶようにした。その振る舞いの中には、子供特有の残忍さも混ざっていた。奈理子は裸のまま、アリ男の行為に何もできず、ただその場で耐えるしかなかった。奈理子の体を思う存分楽しんだアリ男は満足して去っていった。

その事実が彼女をより一層悲しみのどん底へと引き込んでいた。しかし、その心の奥底には、アリ男を倒さなければならないという強い意志が芽生えていた。子供である彼がどれほどの力を持っているのか、奈理子にはまだよくわからなかった。しかし、今日の出来事が、彼の恐ろしさを如実に示していた。

彼女は深く息を吸い、自らの顔を手で覆った。そして、涙を拭いながらも、その闘志を新たにした。どうやったらアリ男に立ち向かい、彼を倒すことができるのか。その答えを見つけるため、彼女はこれからの戦いに挑むことを決意した。公園の風は、彼女の強い決意を包み込むように、優しく吹き抜けていった。

第65話へつづく)

あとがき