DUGA

ミラクルナイト☆第63話

深い闇が渦巻くアジトの中、勅使河原は失望と苛立ちで腹の中を煮えくり返らせていた。ベニテングタケ女に続いてイソメ男とゴカイ男までも連戦連敗、かつて彼の手の内に収まっていたはずの戦局が一変していた。彼の部下たちが、あのミラクルナイトに手も足も出ないほどの完敗を喫していたのだ。

「クモ男、スライム男、そしてヒメバチ女…」

彼の考えを中断させるように、渦巻の声が響く。

「カラクサ男とザリガニ男が彼らとの接触したようです。」

勅使河原の厳しい視線が渦巻に突き刺さる。

「そして、それがどうしたというのだ?」

と彼は低く、しかしきっとした口調で問い詰めた。

「接触はしたものの、戦闘は回避されています。」

と渦巻は続けた。

「カラクサ男によれば、彼らは人間の姿でありながら、その能力を自由に操ることができるようです。」

その報告に、勅使河原の眉は一気に上がった。そういえば、凜もベッドの上で人間体のままローション不要のヌルヌルを使うことができたことを勅使河原は思い出した。戦力外として考えていた凜にも、もしかしたら何か特別の力が秘められていたのでは、と彼は一瞬の驚きを隠せなかった。しかし、すぐに彼の口角は上がり、さらりとした笑みを浮かべた。

「凜に特別な力があるはずはない」

と呟く勅使河原。

「次の一手は?」

勅使河原が次なる策略を尋ねると、渦巻は少しの間を置いてから提案した。

「シオマネキ女、彼女を使うのはいかがでしょうか?」

勅使河原の瞳に疑問の色が浮かんだ。

「シオマネキ女?」

「はい。一見すると地味なOL、渚という名の彼女ですが、その内には驚くべき能力を秘めています。」

渦巻は確信に満ちた眼差しで語った。

勅使河原はしばし考え込む。そして、慎重に言葉を選びながら命令を下した。

「良い、シオマネキ女を投入せよ。だが、彼女にはウミウシ男も同行させるのだ。初陣だ、手厚くサポートするように。」

勅使河原の言葉に、渦巻は頷き、新たな策略の実行へと動き出した。


夕闇が迫る中、更衣室の静けさは潮田渚の頭の中とは裏腹に穏やかだった。彼女は仕事を終え、事務の制服からTシャツとジーンズに身を包み、無頓着にサンダルを履いた。昔ながらの制服を義務づけるこの小さな企業は、彼女の服装への関心の乏しさにちょうど合っていた。彼女はそう思いながら、何も考えずに服を選ぶことの楽さを感じていた。

彼女の自転車がゆっくりと駐輪場から動き出そうとした瞬間、若い声が彼女の耳に届いた。

「潮田さん」

振り向くと、彼女が微かに覚えている男性が立っていた。彼は「牛島」と名乗ったことがあったような…。彼の言葉には緊急のニュアンスがあった。

「指令が来た。ミラクルナイトを襲うんだってさ」

牛島は軽く言った。

「なぜ私がそんなことを…」

驚く彼女の目を見て、牛島は続けた。

「理由は知らないけど、俺ができるだけサポートするからさ」

渚の心は波立った。彼女の地味な外見、メガネの背後に隠された瞳、それらは突然の指令の前に不安でいっぱいだった。そんな渚を見て、黒縁のメガネに髪は適当に束ねただけの冴えない渚だが、ちゃんとした身なりをしたらソコソコに可愛いかもしれないと牛島は思った。

「ミラクルナイトはこの前に俺も戦ったけど、物凄く弱いから大丈夫だよ」

優しい笑みを送りながら牛島は渚を説得する。

水都には闇の伝説がある。怪人に変える不思議な薬の噂だ。渚はかつてその伝説に魅せられ、探求の末、勅使河原の元へと辿り着いた。そして、彼の命令に従うことを選んだ。

今、渚はその過去の選択に後悔していた。しかし、彼女には逃げる選択肢はなかった。彼女は深く息を吸い、牛島の目をしっかりと見つめた。

「私はできる。ミラクルナイトを倒す」


放課後の街は暮れていく空に、オレンジ色の光が薄く残っている。奈理子はこの日、期末テストでの好結果を受け取り、さらにはカップル強盗という厄介な敵を退治することに成功していた。そんな彼女は自分へのご褒美として奮発して、ライムと共にネットカフェを訪れていた。

彼らの部屋は狭く、防音設備もない、その気になれば外から覗かれる半個室。その中途半場に閉ざされた空間で、奈理子は安堵の息をついた。彼女の制服スカートは既に脱がされていて、夏のセーラー服に、清純な白いパンツだけという姿になっていた。このドキドキ感が堪らない奈理子。

多くの戦いの中で、スカートを奪われることが度々あった。そんな状況に慣れてしまった彼女は、すっかりパンツと生脚を晒す開放感のに酔っていた。

「最近、絶好調だな」

と、ライムが言いながら、奈理子の白いパンツにゆっくりと手を伸ばしてきた。彼の指先は、優しさと愛情で奈理子の腰を撫でた。

「ライムのおかげだよ」

と、奈理子は嬉しそうに微笑んでライムにキスをした。彼女は、ライムとの関係が、戦いも勉強も上手く行く原動力になっていると感じていた。

奈理子の白いパンツは濡れている。二人は、狭いその空間で、ゆっくりとした時間を共有していた。外の世界の騒音が遮断されたその場所で、彼らは互いの温もりを感じながら、一瞬の安らぎを享受していた。


水都公園の中心、噴水広場には多くの人々が休日の余暇を楽しんでいた。その緩やかに流れる日常の中、ある二人の姿がその場に現れた。彼らの名前は牛島と渚。

「ここで姿を表して、暴れればミラクルナイトがやってくるから」と、牛島がささやくように告げる。

渚は目を丸くした。ミラクルナイトを襲う、その指示に従っていた彼女は闇討ちするのかと思っていたが、こうして公然と彼を呼び寄せる形になるとは思っていなかった。

牛島が誰にも見られていないこと確認し、ゆっくりと変身するために薬を打とうとする。その変身後の姿は都市伝説のウシウミ男だった。しかし、渚がその手を慌てて引っ掴んだ。

「これじゃまるで大勢の人の前で決闘するみたいじゃないですか!?」

彼女の目は驚きと戸惑いで満ちていた。公然と目立つこと、それは彼女の性格とは真逆の行動だった。

牛島は渚の目を真っ直ぐに捉え、

「大丈夫。ミラクルナイトは弱いから」

と静かに語った。男に見つめられた経験が殆ど無い渚は、牛島の真剣なまなざしに戸惑う。大勢の人達の注目を受けながら自分が、街の人気者ミラクルナイトと戦えるのか自信はなかったが、ここまで来たらやるしかない

「牛島さん、サポートお願いします」

と彼女は呟いた。そして、その場に魔法のような光が広がり、渚の姿は青く輝く美しいシオマネキ女に変わった。同時に牛島も都市伝説のウミウシ男へと変身した。

「まずはミラクルナイトのスカートを脱がすんだ。この街の人々がそれを期待している」

と、ウミウシ男はシオマネキ女に告げる。突然現れた二人怪人に広場にいた人々は驚きと興奮で騒然となった。

そして、水都公園の歴史の中でも、これほど注目されるであろう一大イベントの幕が開かれるのだった。


夕暮れの街並みが、漫画喫茶の出口から眺めるといつもより美しく感じられる。それは、奈理子がライムと過ごした特別な時間の余韻だった。二人で過ごす穏やかな時間が、どれだけ貴重で心温まるものか、彼女は深く知っていた。しかし、中学生の奈理子には、その時間を延ばす余裕はなかった。

「また次回ね、ライム…」

と心の中で呟きながら、彼女は家路を急いだ。心の中では期末テストの答えが巡っていた。そんな彼女の歩みを、急に響き渡る町内放送が止めた。

「水都公園にウシウミ男と未確認の怪人が出現…」

放送の声に、奈理子の心は冷たいもので掴まれた。あの戦いの記憶が、彼女の心に鮮明に浮かび上がる。ウシウミ男、彼との戦いで完敗してしまったあの日。彼に勝てる自信はまったくなかった。

しかし、奈理子はただの中学生ではない。彼女は、水都を守る守護神、ミラクルナイトだった。逃げるわけにはいかない。街の安全と平和、それを守るために戦わなければならない。

彼女は手の中のアイマスクを高く掲げると、輝く光の中、美しく勇敢なミラクルナイトへと姿を変えた。夜の街並みが、彼女の背後に大きく広がり、奈理子は再び、運命との戦いへと足を進めた。


水都公園噴水広場に舞い降りたミラクルナイトの姿は、市民にとって希望の象徴。彼女の現れるたびに、安堵の歓声が響く。今日も例外ではなかった。夕日に染まった空の下、ミラクルナイトの輝きは一際明るく、多くの市民がその勇姿に目を細めていた。

だが、彼女の前に立つのは、2体の怪人。鮮やかな色彩のひとつは彼女が以前戦ったウミウシ男。そしてもうひとつは、鮮やかな青色に身を包んだ、女性らしい体つきの怪人。その左手には、鋏のようなものが備わっている。

「貴方は何者?」

と、ミラクルナイトが尋ねる。

「シオマネキ女…」

その声は、初めて戦場に立つかのような緊張感に満ちていた。

「シオマネキ?」

シオマネキという名前に、奈理子は首をかしげた。奈理子はシオマネキを知らなかった

「カニの仲間ね」

と、シオマネキ女が説明する。

「青いカニ?」

と、ミラクルナイト。

昔からシオマネキの怪人は青と決まっているみたいなの」

と、彼女は少し自慢げに言った。

シオマネキ女の背後にいたウミウシ男が一歩引くと、ミラクルナイトは警戒を強めた。しかし、始めは不安そうに見えたシオマネキ女の瞳に、次第に闘志が灯るのを感じ取った。彼女の真の力、それはこれからの戦いで示されるのだろう。

噴水の水飛沫が冷たく夜風に舞い、水都公園の広場には緊迫感が漂った。市民たちの期待と不安が混ざり合い、二人の怪人とミラクルナイトの対決を静かに見守っていた。


水都公園噴水広場の夜風が冷たく感じられる中、熱い戦いが繰り広げられていた。ミラクルナイトが先制の光弾を放つが、シオマネキ女の機敏な動きで避けられる。そして、その一瞬の隙をついて、シオマネキ女の電磁鋏がミラクルナイトのコスチュームを裂いてしまう。

「あぁぁ…!」

と、地に伏すミラクルナイト。しかし、彼女を容赦なく捕え上げるウミウシ男。

「まずはスカートだ!」

彼の指示のもと、シオマネキ女はミラクルナイトのスカートを脱がせようとしたが、女性としての気恥ずかしさから躊躇ってしまう。

「これは様式美だ!ミラクルナイトのスカートを脱がさなければ戦いは始まらないし、市民も納得しない!」と、ウミウシ男が高圧的に命じる。

「あんた、何言ってるの!!」

ミラクルナイトの怒りの表情が瞬く間にウミウシ男に向けられるが、彼の強力な吸盤に捕らえられ、身動きが取れない。

そして、意を決したシオマネキ女の電磁鋏が再び迫る。ミラクルナイトは脚をバタつかせシオマネキ女を近付かせないようにしていたが、シオマネキ女の電磁鋏がスカートの中に差し入れられる。かってクラゲ男の電撃を喰らい失神失禁したときの恐怖が蘇り

「ひっ!」

と悲鳴を上げてしまうミラクルナイト。その声もすぐにシオマネキ女の行動により悲鳴に変わった。スカートが剥ぎ取られ、露わになったミラクルナイト。

「いやぁぁ…」

と嘆くミラクルナイトをウミウシ男から投げ捨てた。半ば晒された姿のミラクルナイトは、地面にひざをついて息を切らせていた。その姿に、見守る市民たちの中には心からの同情や心配の声も挙がる。だが、ミラクルナイトの闘志はまだ尽きていなかった。彼女は再び立ち上がり、二人の怪人に立ち向かう準備をするのだった。


露となった白いパンツを夜風が優しく撫でる中、

「私のパンツが見たいなら気が済むまで見ればいいわ!」

毅然としてミラクルナイトは立ち上がった。彼女の声は堂々としており、その決意が周りの人々に伝わっていった。しかし、

「そのシミはなんだ。さっきまで良からぬことでもしていたのか?それとも今見られていることに感じてるのか?」

ミラクルナイトはウミウシ男の冷酷な言葉に頬を染めた。その嘲笑を含んだ言葉に、一瞬の屈辱が彼女を襲い座り込んでパンツを隠す。ウミウシ男はシオマネキ女に目で合図した。シオマネキ女がミラクルナイトに迫る。

その瞬間、黄色い光と共に場に舞い降りたのは、ドリームキャンディだった。

「奈理子さんを苛めるのはやめなさい!」

彼女の力強い宣言は、場の空気を一変させた。

ウミウシ男の目には迷いが浮かんだが、ミラクルナイトを襲うという使命は果たした。ドリームキャンディトとも戦うべきか。しかし、シオマネキ女はドリームキャンディへとその溶解泡を放つ。ミラクルナイトは、

「危ない!」

とっさにドリームキャンディを抱きしめ、その泡から彼女を守ろうとした。

「あぁあー!」

背中に溶解泡を浴びたミラクルナイトの悲鳴。ミラクルナイトのコスチュームが溶ける。これを見て、ウミウシ男はミラクルナイトとドリームキャンディの二人をまとめて倒すことを決めた。

ドリームキャンディは、ミラクルナイトの背中から立ち上る煙を見ながら、彼女の手が徐々に弱くなるのを感じる。

「しっかりして、奈理子さん!」

彼女の叫び声は、ミラクルナイトに力を与えようとしたが、彼女の意識は遠くへと飛んでしまっていた。

公園の噴水広場は静寂に包まれ、月明かりの下、二人のヒロインと二体の怪人の対峙が続く。この戦いの結末は、まだ誰にも分からなかった。


月の光が静寂に包まれた噴水広場に降り注ぐ中、ミラクルナイトの無慈悲にも露わにされた姿が地面に伏せられていた。彼女の髪を飾る可愛い白いリボンが、それに続く素肌の背中や脱がされて露となった白いパンツを、いっそう強調して見せるかのように風に揺れていた。

ドリームキャンディはその姿を目にして怒りを隠せなかった。彼女の身に何があっても、仲間をこんなに屈辱的な姿にした敵を許すわけにはいかない。彼はキャンディチェーンを引き抜き、ウミウシ男に襲いかかる。しかし、そのチェーンがウミウシ男のもつれるような柔らかい体に絡みつき、何も傷つけることができなかった。

次に狙ったシオマネキ女も容易くは倒れなかった。彼女の電磁鋏がキャンディチェーンを受け止め、煌めく電撃がそのままドリームキャンディへと流れ込んだ。反射的に、彼はキャンディチェーンから手を放した。

ウミウシ男の巧妙な動きとシオマネキ女の猛攻に、ドリームキャンディは追い詰められていった。とうとう彼は、ウミウシ男の吹き付ける毒液の前に意識を失い、ミラクルナイトの側へと倒れ込んでしまった。

ウミウシ男は冷たく

「これだけやれば充分だ。帰ろう」

とシオマネキ女に言い放つ。しかしその目はまだ戦いの興奮で燃えていた。彼は彼女の腕を引き、二人は闇の中、運河へと姿を消していった。

月光が浴びせる中、市民たちは息を呑んで見つめる。噴水広場には、かつての輝きを失ったヒロインたち、ミラクルナイトとドリームキャンディの姿が横たわっていた。彼女たちの未来は、この夜の終わりと共にどこへと向かうのだろうか。


夜のヴェールが都市を包む中、月の光だけが噴水広場に光を投げかけていた。渚の息は、短く激しく続いていた。彼女の冷静な外見とは裏腹に、心の中では先程の戦いの余響が轟音のように鳴り響いていた。

この地味な女が先程までシオマネキ女だとは未だに信じられなかった。牛島がサポートしたとはいえ、ミラクルナイトとドリームキャンディを圧倒したのだ。シオマネキ女は予想以上の強さだった。惜しむらくは、無造作にくくった髪、冴えない黒縁メガネ、ノーメイクに装飾品は何も身に着けず、Tシャツ、ジーンズにサンダルの渚の姿だ。

彼はふと、彼女の黒縁のメガネを外してみた。渚は驚きでひるむが、目の奥に隠れている輝きを牛島は確かめることができた。地味だが磨けば可愛くなるかもしれないと牛島は思った。

「初めての実戦はどうだった?」

牛島の声は低く、しかし温かかった。

渚は口角を上げて、興奮の中にも安堵の色を浮かべて言った。

「自分が自分でないみたいで、とても楽しかったです。」

人知れず生きてきた彼女にとって、今夜の舞台は特別だった。愛されるヒロインの敵として、一夜の間だけ、都市の中心となり、多くの人々の視線を浴びることができたのだ。

「またミラクルナイトと戦いたいです。」

と目を輝かせる渚の頭を牛島はソフトに撫でるが、それは鬱陶しいと思った渚は、

「メガネを返して下さい」

と彼女はその手をかわすようにしてメガネを求めた。彼は小さく笑いながら、メガネを渡した。

「また指令があるだろう」

と牛島。

「また、牛島さんと一緒がいいです。」

渚の言葉は、彼女自身にとっても驚きだったかのように、恥ずかしそうに続いていた。牛島は戦いのパートナーとしては頼りになる。顔を覗き込んだり、メガネを取り上げたり、髪を触ったり、嫌なところもあるが、渚は緊張を解こうとしてくれていると好意的に解釈していた。

その言葉を受け取った牛島は、笑顔で応えた。

「俺も潮田さんとまた一緒に戦いたいと思っているよ。」

彼の姿が広場の影に消える中、渚は自分のTシャツを気にした。今夜の戦いの熱がまだ彼女の身体に残っていた。

第64話へつづく)