DUGA

ミラクルナイト☆第75話

部屋のドアを軽くノックする音が、奈理子の部屋に静かに響いた。しかし、返事はなかった。仕方なく、隆はドアを開けて中に足を踏み入れる。深い眠りの中に沈む姉の姿がベッドの上に広がっていた。部屋着兼パジャマのTシャツワンピースが不慮にも臍までずれてしまっており、普段は見せることのない部分が露わになっていた。

隆の目は、姉の白いパンツに向けられてしまう。その時、彼の心の中で、姉としての奈理子と、一人の女性としての奈理子のイメージが交錯した。彼は奈理子がミラクルナイトとしてたくさんの戦いで何度も敵にスカートを脱がされてきたことを知っていたが、このように間近で奈理子のパンツを見れるのは同居する弟の特権だと思った。

彼は一瞬、かつての日々を思い出した。一緒に風呂に入ったり、幼い日の純真な時を過ごした日々。しかし、目の前の奈理子は、あの頃の無邪気な姉ではなく、美しい成熟した姉として彼を見つめていた。隆は奈理子の大切な場所を隠す白い布を撫でてみた。彼は、この姉に彼氏がいることを悔しいと思った。しかし、姉を見知らぬ男に奪われるの弟の宿命だと隆は分かっている。

「姉ちゃん、起きろ!」

隆は、気を取り直して奈理子を起こすことに決めた。彼女が目を覚ました時、彼の存在に驚くような瞳で彼を見た。

「ノックしても起きないから、起こしに来てやったんだぞ」

と彼は照れくさい気持ちを隠しながら語った。

時計を見て、彼女は急に焦りを感じる。

「ありがと、隆。着替えるから出ていって」

と、彼女は隆に感謝の言葉を伝えつつ、ベッドから飛び起きた。

隆はドアを閉める前に、もう一度姉の姿を見て、心の中で少しの寂しさを感じた。彼は彼女が自分の前で見せる姉としての顔と、彼氏の前で見せるであろう女性としての顔の違いに、淡い寂しさを感じていた。彼の心の中で、ずっと変わらない純真な姉と、大人として成長した姉のイメージが交錯し続けた。

夏の暑さの中、寧々の家の玄関に隆がやって来た。彼の表情は少し緊張と期待で満ちていた。

「プール行こうぜ」

と、隆の提案はいつものような明るさではなかった。

寧々は、隆の目の奥にある意味を探るように、

「2人で?」

と問う。

「2人で」

と、答えは簡潔だったが、その背後には何かが隠れていることを寧々は感じ取った。彼女は顔を歪め、

「何で私が隆と2人でプールに行かなきゃならないの?」

と反論した。隆の答えは彼女を驚かせるものだった。

「寧々の水着が見たいから」と。

「いきなりやって来て変なこと言わないで」

そんな理由で彼がやって来たとは思えなかった。

「寧々じゃなきゃダメなんだよ」

「何でよ?」

寧々は隆の真意が分からなかった。しかし、隆はさらに続けた。

「今日、姉ちゃんがプールでデートなんだよ」

と。寧々の目が広がった。奈理子とライムの関係は彼女も知っていた。隆の心情がやっと理解できた。彼は姉を心配して、デートの様子を見に行きたかったのだ。

「デートの邪魔しちゃ悪いじゃない」

「邪魔はするつもりはないけど、どんな奴が相手か見てみたいんだ」

寧々は迷ったが、好奇心が勝って彼と一緒にプールに行くことにした。隆の続く

「できるだけ可愛い服を着てくれ。短パンじゃなくてミニスカ生パンがいい」

という言葉に、彼女は驚きを隠せなかったが、

「何で私が隆のためにそんな格好しなきゃいけないの!」

と隆にはそう言いながらも、彼の気持ちを思いやりミニスカートにした。もちろん、スパッツを忘れることはなかった。

プールの準備をして玄関やって来た寧々。隆は寧々の姿を確認する。スカートの裾からスパッツが見えるのを見て、彼は少しガッカリしたようだった。寧々は笑って、冗談めかして

「パンツ見たかったら奈理子さんに見せてもらえばいいじゃない」

と言った。

しかし、隆の表情は硬くなり、彼が寧々の手を握りしめたとき、彼女は驚きと恐怖で身を震わせた。

「今日の隆、怖いよ」

と、彼女は心の中でつぶやいた。スライム男であるライムのことを思い浮かべながら、彼女はこの日のプールでの出来事に不安を感じ始めていた。


水都市民プール、都市の真ん中に輝く水の楽園。日差しがキラキラと水面を照らし、子供たちの笑顔や親子の楽しむ姿が至る所に広がっていた。

更衣室の扉を開けると、目の前には待ちきれない様子の隆が立っていた。寧々の姿を捉えると、彼の瞳が一瞬、寧々の体を上から下まで走った。彼女の水着は、スパッツ型のスクール水着。彼女自身、それで十分だと思っていたが、隆の目線とその後の

「小学生じゃこんなもんか」

という言葉に、寧々はちょっと傷ついた。

「隆だって学校の水着じゃない!」

寧々の怒りは、彼のガッカリした態度に火をつけられていた。しかし、隆はその怒りを無視するかのように、

「まずはアレだ」

と巨大なウォータースライダーの方へと寧々を連れて行った。

彼女は歩きながら、隆が気にしている奈理子の姿を探した。しかし、並んで順番が回って来たときに隆が選んだスライダーの浮輪が2人乗りだったことに、寧々は驚きを隠せなかった。

高い場所からプール全体を見下ろし、奈理子を探す彼が言った

「姉ちゃんの水着は水色のビキニだ」

という言葉は、寧々の心に新たな疑問を投げかけた。中学生になると、女子はデートの水着がビキニになるのだろうか? 小学6年生の彼女にとって、それはまだ遠い未来のことのように思えた。

スライダーの頂上、2人乗りの浮輪に座ると、寧々の後ろに隆が座った。彼女の心臓は、ドキドキと高鳴る音を立て始めた。まるでデートのようなこの状況に、彼女は思わず顔を真っ赤に染めた。

しかし、浮輪が滑り出すと、その恥ずかしさは風に飛ばされるように消え去った。高速で滑るウォータースライダーのスリルは、寧々にとってこれまでの経験の中で最高のものだった。

スライダーを降りた後、隆と2人で過ごす時間にちょっとした違和感を感じながらも、寧々はその日を最大限に楽しむことを決意した。夏の日差しの下、彼女の笑顔は輝いていた。


水都市民プール、その名の通り、この公営プールは、ただのプールではなかった。豪華な設備と施設が整っており、夏休みとあって子供たちでごった返していた。特に流水プールは、人々が密集して芋洗いのような状態となっていた。

浮輪に乗り、慎重にバランスを取りながら流れる水の上を進む寧々。彼女の心の中は、友人の奈理子を見つけることでいっぱいだった。突然、水中から浮上してきた隆の顔が寧々の目の前に現れる。

「これじゃ奈理子さん探すの無理だね」

と寧々が言った。しかし、隆は奈理子のことよりも、水中の世界に興味津々だったらしい。

「何してんの?」

と彼に問いかけた。答えは予想外だった。

「水の中は面白い世界があるんだ。子供の寧々には分からないだろうけど」

と、得意げに隆が言う。寧々は隆の言葉にちょっとムッとして、彼女も興味本位で水中へと顔を沈めてみると、そこには他の女の子たちの下半身が広がっていた。

「スケベ!奈理子さんが心配と言うから隆と一緒にプールに来たのに」

と怒る寧々。しかし、隆は寧々の怒りを全く気にしていないようだった。

「次はあっち行こうぜ」

と、彼はさらに別の方向、波のプールを指差した。

「せっかくプールに来たんだから、怒ってばかりいないで楽しめよ」

と言う隆の言葉に、寧々はやや戸惑いを感じながらも、彼に従った。

「もう一つ浮輪借りる?」

と提案する寧々だったが、隆は

「いや、その浮輪に2人で入ろう」

と提案。一人用の浮輪に二人が入ることの不安を感じつつも、彼女は隆のリードを信じて波のプールへと足を踏み入れた。


水の中の静けさが耳に響いた。寧々はゆるやかに揺れる波の中で、足がつかない深さまで隆に浮輪を押してもらい進んでいた。その静寂は一瞬にして打ち破られた。隆が水の中からすっと浮上し、狭い浮輪の中心へと身を滑り込ませた。

2人の距離は、想像以上に近いものとなった。寧々の腕の上に隆の腕が自然と重なり、彼は無意識のうちに寧々の小さな手を握ってしまった。その瞬間、寧々の心は

「触らないでよ」

という一言を口にしたが、隆は

「仕方ないだろ。他に手を置くところがないんだから」

と返した。その言葉に、寧々は何も言い返せなかった。

「もっと深いところ行こうぜ」

と、隆がさらに前に進む提案をしてきた。寧々はただ浮輪に掴まり、隆の動きに身を任せるしかなかった。まるで後ろから隆に抱かれているようだ。この状況、もし知り合いに目撃されたら…そんな心配が頭をよぎった。学級委員であり、常に学年トップの成績を維持している寧々が、いわゆる「バカ」で知られる隆と仲良くプールで遊んでいると知れ渡ったら、学校中でどんな噂になるのか…

寧々が移動は隆に任せ、奈理子を探すことにした。周りを見渡す寧々。そして、

「あっ」

寧々は奈理子を見つけた。そこには、大きな浮輪に乗った奈理子の姿が。彼女の後ろからは、イケメン、ライムが彼女を固く抱きしめていた。まるで雑誌のカバーページのような、理想的なカップルの姿だった。

「もしかして、私と隆もそう見えるのかな?」

寧々の頬が紅く染まる。恥ずかしさとともに、心の中で微かな期待も芽生えた。

その瞬間、水都市民プールの目玉、大波が起きた。その巨大な波が2人に襲い掛かってきた。


波の力は寧々の予想を遥かに超えていた。水面の上で平和に浮かんでいた小さな浮輪は、その巨大な力によって瞬く間に水の中に引き込まれ、寧々と隆はその中心でグルグルと回転した。

波が収まる静寂の中、寧々の心は驚きと共にある種の興奮を感じていた。しかし、その爽快感も束の間、隆の腕が浮輪ごと寧々を抱え、彼の両足が彼女の身体に絡みついていることに気がついた。

「隆、何してるの…?」

と言葉にしようとしたその瞬間、熟知した声が響いた。

「寧々ちゃん、こんにちは。」

目の前には、キラキラとした目で微笑む奈理子の姿があった。彼女の背後には、ライムもいた。寧々の目は、奈理子のビキニから胸元へと移った。事実、彼女の胸は小さかったが、その顔立ちと佇まいは見惚れるほどだった。

「へ〜、隆と寧々ちゃんがねぇ…」

と、奈理子が悪戯っぽい声で言うと、寧々は隆に

「離れて!」

と言ったが、浮輪の狭さゆえに動くことができなかった。

ライムの深い声が

「久しぶりだな」

と響き、奈理子の疑問に

「ライム、寧々ちゃんのこと知ってるの?」

と続いた。そこには、二つの秘密が絡み合っていた。寧々とライムは、ドリームキャンディとスライム男としての出会っていること。そして、奈理子がドリームキャンディの正体が寧々である事実を知らないこと。

隆も驚きの表情を浮かべていたが、寧々は適当にごまかすと、奈理子は

「この子は私の弟の隆」

とライムに紹介した。

「邪魔したら悪いから私たち行くね」

と言いながら、奈理子とライムは寧々と隆の前から去っていった。

寧々はちょっとした余韻の中、

「奈理子さん、可愛いね」

と隆に話しかけたが、彼は答えることなく再び水の中で寧々の体に足を絡ませ、寧々を水中へ引きずり込んだ。

「やめて、隆!」

と楽しそうにプールでじゃれ合う彼らの笑い声が、プールの中に響き渡る。


夏の陽炎が揺らめく中、水都市民プールは賑わっていた。その中に、寧々と隆の二人の姿があった。彼らはプールサイドで楽しげに戯れており、時折隆の腕が寧々の肩や腰に触れる。初めはその接触に気後れしていた寧々も、時間が経つにつれて、隆との距離に心地よさを感じ始めていた。

「奈理子さんたちはもう帰ったのかな?」

寧々が声を上げると、隆は少し遠くを見つめながら、

「ネカフェのカップル用ブースでイチャついてんだろ。姉ちゃん最近ネカフェよく行ってるし」

と軽く返した。その言葉に、寧々の瞳に疑問の色が浮かんだ。ネットカフェのカップル用ブース…彼女には知らない大人の世界が広がっているようで、興味と戸惑いが入り混じった。

波のプールで見た一コマが脳裏をよぎる。奈理子がライムの強い腕に抱き寄せられ、頬を赤く染めながら微笑む姿。それを考えると、ネットカフェで二人がどれほど親密な時間を過ごしているのか、寧々の想像は膨らむばかりだった。

「俺たちもネカフェ行く?」

と隆が提案すると、寧々はパニックになってしまった。

「何で私と隆がネカフェのカップルの部屋でエッチなことしなきゃならないの!」

言葉が途切れる中、隆は冷静に

「エッチするとか俺は言ってないだろ?」

と返した。隆は、未成年は鍵付の個室には入れないこととカップル用のブースでエッチはできないことを知っている。寧々は自分の早とちりを恥じらいながら、隆を横目で見る。彼は時折不思議な言動をするが、意外と物腰が柔らかく、頼りになる一面も持っている。そんな隆の魅力に、寧々も気づかされる瞬間があった。

しかし、その穏やかな時間は突如として打ち砕かれた。アメンボ男という怪しい怪人がプールに乱入。場内は一気に騒然となる。隆は半ば冗談めかして

「姉ちゃんはネカフェだから、ミラクルナイトはこっちに来ないぞ」

と言った。

寧々は一瞬の迷いもなく、自分の力でこの事態を解決すると決意。売店の裏に駆け込み、ドリームキャンディへの変身を開始した。


夏の熱気が水都市民プールを包み込む。夏休みに突入し、プールは楽しげな声で溢れていた。しかしその中、一人深い影となって水面を眺める存在がいた。それはアメンボ男。彼の目的はただ一つ、奈理子との決戦だった。彼は得意の水上戦を挑むため、奈理子が夏休みに入ってから何日もの間、水都市民プールでその瞬間を待ち続けていた。

「ようやく来たか…」

アメンボ男は目を光らせた。しかし、その目に映ったのは奈理子と共に歩む、恐るべきスライム男の姿だった。彼らはまるで無敵のペアのように、手を繋ぎ合ってプールを後にした。

アメンボ男の顔には焦燥と無念が浮かんでいた。待ち望んだ戦いの機会が、このような形で消えてしまったのだ。彼の感情は一気に爆発し、その無念を晴らすべく、プールで遊ぶ市民たちを襲った。

悲鳴が響き渡る。水しぶきが立ち上る中、流水プールの上を楽々と移動するアメンボ男の姿が目立っていた。彼の独特の動きに逃げる場所を見失う市民たち。

そのとき、空から黄色い光が降り注ぎ、流水プールの中心に小学生戦士ドリームキャンディが現れた。

「アメンボ男、私が相手よ!」

彼女の力強い宣言が響き渡る。

しかし、アメンボ男とは対照的に、ドリームキャンディは水面を歩く能力を持っていなかった。彼女の足が水面に触れると、そのまま水面下へと沈んでしまった。プールの中心で泡を上げる彼女の姿に、市民たちは驚きと期待の眼差しを向けていた。


水しぶきと共に、流水プールに沈むドリームキャンディの姿が目の前に広がる。アメンボ男は、その滑稽な光景に目を細める。彼の面には、半ば驚き、半ば呆れた笑みが浮かんでいた。

「お前は何をしているんだ?」

彼の言葉が水都市民プール全体に響く。

そんな彼女を救うため、駆け寄る一人の少年の姿があった。それは隆だった。彼は流されるドリームキャンディの手を掴み、プールから彼女を引き揚げた。水滴を散らしながら、彼女は息を切らせて立ち上がる。

「ドリームキャンディは勉強は出来るけど、実はバカなんだな」

と隆の声が、一瞬プールサイドの空気を和ませる。ドリームキャンディの顔は紅潮し、恥ずかしさで目を伏せる。しかし彼女はあっという間に立ち直り、腰からキャンディチェーンを外す。鞭のようなその武器を振りかざしながら、アメンボ男に立ち向かう姿は、まるで闘志に燃える戦士のようだった。

アメンボ男もまた、戦闘態勢を取る。彼の能力は水上を自在に移動すること。その能力を活かし、彼は流水プールの上を縦横無尽に動き回る。ドリームキャンディは彼の動きを追い切れず、何度も彼の攻撃を受ける。キャンディチェーンで反撃を試みるも、アメンボ男の速さと機動力には到底及ばない。

ドリームキャンディの呼吸は荒くなり、彼女の瞳には焦燥が浮かぶ。隆やプールを訪れていた市民たちも、彼女の劣勢を憂慮する表情を隠せなかった。アメンボ男は、その優勢をさらに強調するかのように、高みの見物を決め込んだ。彼の笑顔が、水都市民プールに響き渡っていた。


プールサイドに広がる緊迫した空気の中、隆はふと思った。

「アイツ、プールから離れたら何もできないんじゃないか?」

その言葉は、恐れる市民たちの中に小さな希望の光を灯した。

「みんなプールから帰ればいいんだ!」

との声が次第に広がり、市民たちはプールを後にして逃げ出す様子が始まる。

「俺たちも帰ろうぜ」

と隆は冷静さを保ちながらドリームキャンディに提案する。彼女の瞳は、戦いを避けることに疑問を抱いていた。

「アメンボ男は放っといていいの?」

しかし隆の答えは即座に返ってきた。

「水の上でしか動けないみたいだからみんな帰ればアイツも帰るじゃないの」

と。ドリームキャンディの心の中には、水都市民プールで働く人々の姿が浮かんでいた。

「でもこのままじゃプールで働く人たちが困るよ」

と彼女は困惑した顔で隆を見つめる。

その瞬間、アメンボ男の怒りの叫びが響き渡った。

「俺は水の上だけじゃないぞ!」

その言葉とともに、彼はプールから飛び上がり、空を舞った。

「おお、アメンボって飛ぶのか!」

隆の驚きの声が響く中、

「当たり前だ。飛ばなきゃ池や水溜りを移動出来ないだろ!」

と叫びながらアメンボ男は空からのタックルでドリームキャンディを弾き飛ばした。

彼女の身体が重たく地面に落ちる音が響き渡る中、隆は彼女のもとに駆け寄った。

「しっかりしろ!」

と声をかけ、彼女の身体を優しく持ち上げる。

「次はネカフェの個室に連れて行ってやるから」

とドサクサに紛れて隆はドリームキャンディの体をペタペタ触りながらドリームキャンディを抱き起こす。そんな隆の言葉と行動に、ドリームキャンディの頬にはわずかな紅潮が浮かんでいた。

アメンボ男はすでにプールサイドに立っていたが、その足元は安定していないようだった。水の上よりも陸地の方が戦いやすいと感じたドリームキャンディの瞳に、新たな闘志の炎が灯った。


プールサイドに立つアメンボ男の動きは猛烈で直線的だった。しかし、ドリームキャンディは冷静にその動きを見極め、素早く身を横に移してアメンボ男の襲撃を交わした。その一瞬の隙を突き、彼女はキャンディチェーンを振り上げた。金属的な響きと共に、鎖はアメンボ男の体を巻きつけてしまった。

「勝負あったわね」

と、ドリームキャンディは少し胸を張って宣言した。だが、その安堵は束の間。アメンボ男の声が陰りを帯びて響いた。

「アメンボは獰猛な肉食の昆虫だ。アメンボの能力を甘く見るなよ!」

彼の口先から緑色の毒液が吹き出され、それがドリームキャンディの体に直撃した。

「あぁ!」

と悲鳴を上げるドリームキャンディ。その瞬間、隆の声が響いた。

「プールに入って毒を流せ!」

彼女は迷わずその言葉に従い、再び流水プールに飛び込んだ。

アメンボ男は得意げな表情で

「プールに入ればこっちのもんだ」

と笑った。だが、その笑顔を隆は許さなかった。

「そうは行くか!」

と彼はキャンディチェーンを拾い上げ、アメンボ男の背中に全力で叩きつけた。その瞬間、プールの深い部分から虹色の光が上昇し、空を焦がすような速さでアメンボ男に直撃した。ドリームキャンディが最後の技、キャンディシャワーを放ったのだ。

光の中、アメンボ男の姿は徐々に透明になり、やがて完全に消滅してしまった。沈黙がプールを包み、水面に映る太陽の光が、アメンボ男の終焉とドリームキャンディの勝利を静かに照らしていた。


日差しの中、力を使い果たしたドリームキャンディはプールの水面でひと息ついていた。その姿を見つけた隆が、彼女の細い腕を掴んでプールから引き上げた。水滴が二人の肌から滴り落ちる中、ドリームキャンディは深く息を吸い込み、

「ありがとう、隆」

と疲れた声で言った。

隆は、彼女の腰をそっと支えながら、

「今度は2人でネカフェに行こうな」

と囁いた。その距離、その暖かさに、ドリームキャンディはちょっと照れくさい気持ちになったが、

「その気になったら行くよ」

と答えた。隆の次の言葉、

「そのときはミニスカ生パンな」

には、彼女はクスッと笑って

「それはイヤ」

と答えた。

その頃、プールから帰りかけていた市民たちが、ドリームキャンディの戦いの終息を察し、彼女の元に戻ってきていた。彼らの歓声と祝福の中、ドリームキャンディは隆の顔を見上げ、二人がまるでおとぎ話の中の王子様とお姫様のようだと感じた。隆の真剣な眼差しに、

「早く変身解いて寧々に戻れよ。ゴーグルが邪魔だ」

という言葉が飛び出し、

「うん」

と頷いた彼女は黄色い光に包まれ飛び去って行った。

帰り道、夕暮れの空の下、寧々は隆の隣を歩いていた。いつもよりも隆の足元が近く感じ、どことなく繋がりたいという気持ちが湧き上がってきた。しかし、隆の手はどこか遠く、寧々の手に触れる気配はなかった。

寧々は、隆の姉、奈理子のことを考えた。中学生になると、あんな風に大胆になれるのだろうか。好きな人に自分の気持ちを伝える勇気が湧いてくるのだろうか。そんなことを考えながら、隆の楽しげなバカ話に耳を傾けていた。

(第76話につづく)

あとがき