ミルキーナイト~胡桃・21歳~☆第11章「別れと覚醒」
朝焼けの色は、あまりに優しくて、残酷だった。
胡桃は、裸のままベッドの上でシーツに包まりながら、隣で眠るレオの寝息を聞いていた。
「……こんな朝があるなんて、思ってなかった」
誰にも言えなかった胸の中の言葉が、ふと唇からこぼれる。 レオの肩にそっと手を伸ばすと、彼はゆっくり目を開けた。
「おはよ、胡桃ちゃん……まだ夢みたいな顔してる」
「……うん。夢、かも」
彼の指が、彼女の頬をそっと撫でた。胡桃は、それを受け入れるように目を閉じた。
「なあ……ちょっと言いにくいんだけど」
レオの声が、少しだけ真面目になった。
「俺、今日で首都に戻るんだ」
沈黙。胡桃の手が止まる。
「……え?」
「ほら、レーベルの契約があってさ。鄙野に来たのも短期のPRライブ企画ってだけで……まあ、正直ここで君に会えるとは思ってなかったけど」
胡桃はうまく呼吸ができなかった。
「昨日のこと、なんだったの……?」
「うーん、なんだったんだろうね? でも……楽しかったよ?」
無邪気な笑み。 それが、刃のように彼女の心を切り裂いた。
「……ひどいよ、レオ」
「え、なんで? 俺、嘘ついたわけじゃないし」
胡桃はシーツを強く握りしめた。
「……出てって」
「……そっか」
レオは言われるまま、着替えて部屋を後にした。 玄関の扉が閉まった音が、どこか遠くで鳴ったように響いた。
胡桃は崩れるようにベッドにうつ伏せた。 熱い涙が、枕を濡らした。
「なんで……私、こんなに……」
* * *
その夜、町の西にある工場跡地に、異変が起きた。
「ミミズノレン、参上~~~!!」
現れたのは、全身がカーテンのように長く垂れ下がった無数のミミズで構成された巨大魔物。 ずるり、と滑るたびに建物の壁が崩れ、窓ガラスが砕けた。
胡桃は変身もせず、家で毛布を抱えていた。 テレビには「市西部にて未確認生物出現」のテロップが流れている。
(……もう、戦いたくない)
そのとき。
「バカが……っ!!」
怒鳴り声が部屋の窓越しに響いた。 胡桃が飛び起きて外を見ると、そこには制服のまま走っていくカスミの姿。
「……カスミ!?」
彼女は鉄パイプを手に、魔物の方角へ向かっていた。
* * *
ミミズノレンは空中から粘液状の触手を振り回し、地面を這うように進む。
「このっ……下がれぇっ!」
カスミは果敢に立ち向かい、パイプで一本のミミズの首を砕くが、切っても切っても身体は再生する。
「っく……速いっ……力も、強いっ……!」
触手の一撃がカスミを吹き飛ばし、電柱に叩きつけた。
「がっは……くっ……」
胸を押さえ、膝をつくカスミ。
「やっぱり……人間の力じゃ、無理なのかよ……」
その姿を、胡桃は遠くから目撃していた。 走る。呼吸が苦しい。喉が焼ける。
「私が……私が、弱かったから……っ!」
心の中で何度も響くレオの言葉。カスミの怒り。自分の迷い。
「でも、もう逃げない……カスミを……この町を……絶対、守る!!」
変身リングを掲げ、胡桃は叫ぶ。
「ミルキー・アクト――覚醒形態、発動!!」
光が爆ぜた。 白と茶に金の輝きが加わり、新たな戦衣がその身を包む。 スカートは長く翻り、背中には光の翼のようなエフェクト。 胸の宝珠が高鳴り、力の波動が町に広がった。
「真・ミルキーナイト、ここに再臨――!!」
魔物が振り返る。 だが、その瞬間にはすでに拳が届いていた。
「ミルキー・ジャスティス・ブレイク!!」
跳躍しながらの回転三段蹴りが、魔物の核を直撃。 カーテン状の身体がバラバラに崩れていく。
「私にはもう、迷ってる暇なんてない……っ!!」
爆発。 魔物は光と共に消えた。
残された戦場に、ミルキーナイトが立つ。 その手には、倒れたカスミの身体。
「ごめんね……私、あんたを守るって、決めたのに……」
涙をこらえながら、胡桃は静かに言った。
「でも、もう私は迷わない。恋も、過去も、全部受け止めて……ミルキーナイトとして、生きていく」
その言葉は、夜空に静かに溶けていった。
朝焼けは、もうすぐそこだった。
(第12章へつづく)









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