DUGA

ミルキーナイト~胡桃・21歳~☆第21章「粘液と詩と濡れ紳士」

 鄙野・市民文化広場。  夕日が沈みかけた赤い空を背景に、ミルキーナイトはひとり待っていた。

 「また来る……今度こそ、負けない」

 彼女の視線の先、ぬるりと地面を這うように現れたのは、銀光りする軍服姿のナメクジロー将軍。

 「おお、今日も輝いていますな、その腹部の造形……っ!」

 ナメクジローはなぜかいつにも増してテンションが高かった。

 「今日は特別なフルコースを用意しました。名付けて──『粘着変態・絶望編』!」

 「なっ……また変なこと企んで……っ!」

 「まずは前菜。ドローン部隊、展開!」

 ナメクジ型の小型ドローンが大量に飛来し、彼女の周囲を取り囲む。  「録画班、詩吟班、濡れセンサー班──配置完了です!」

 「はあああ!? 詩吟!? なにそれ!」

 ドローンの一体がマイクを向けると、ナメクジローが胸に手を当て詠じた。

 「白き腹 勇ましき腿に 粘液が 滴る刻は 粘着の華!」

 「どっっきもぉぉぉおおおお!!」

 胡桃の叫びをかき消すように、ナメクジローは背中のタンクを開放。

 「主菜はこちら。『スリップ・スライム』! 衣服の繊維だけを分解する粘液でございます!」

 ドローンが撒き散らす霧がミルキーナイトの衣装を蝕み、胸元、へそ、太腿にわずかなほつれが走る。

 「ひっ……!? こ、これ……!」

 「変身衣装は貴重な文化財。傷つけず、剥くのがマナーなのですぞ!」

 彼女は羞恥に顔を赤らめながら攻撃を試みるが、足元がぬるぬるすべって踏ん張りが利かない。

 「くっ……っ!」

 そして、ナメクジローが一歩前へ進んだ。  銀の軍服がゆらりと変化し、黒の燕尾服へ。  髪をかきあげ、粘液で濡れた白手袋をちらつかせる。

 「──濡れ紳士モード、起動」

 「ちょっと!? その格好なに!? なんで似合ってんの!? むかつく!!」

 「嗚呼、戦う姿もまた美しきヒロインよ……君の勇姿に、私は粘液の涙を禁じ得ない」

 「もう……無理……っ!!」

 羞恥と混乱、ぬるぬると溶けかける衣装、ドローンの称賛。  足が、心が、止まりそうになる。

 だが──

 「胡桃! まだ脱がされてねえなら戦えるだろ!!」

 空から風が吹いた。  風に乗って、プリティ・ストームが着地。

 「まったく、どいつもこいつも変態すぎ! あたしがまとめて吹き飛ばしてやる!!」

 ナメクジローは肩をすくめた。

 「……ふむ、今日の成果は充分。ミルキーちゃんの限界と粘液耐性は完全に記録済み」

 「キモい記録残すな!!」

 ナメクジローは笑いながらドローンとともに撤退。

 ミルキーナイトは膝をつき、震える手でへそを押さえながら呟いた。

 「……わたし……こんなやつに、何回も……」

 「次は一緒にボコす。絶対」

 プリティ・ストームのその言葉に、ミルキーナイトは小さく頷いた。

 夜風が、静かに二人を包んだ。

(第22章へつづく)