DUGA

ミラクルナイト☆第244話

或る或る天国。

一花拉致事件の捜査は、教団は無関係と言うことで一段落付いた。市警上層部に信者が多数おり、テレビや新聞にとって教団は重要な広告主であるためマスコミの追及も厳しくはない。だが、その代償は大きい。市警にもマスコミにも、教団を疑う者はいる。現に、施設の入り口付近には市警の覆面パトカーが停まり、監視の目を光らせていた。教団の資金源は違法薬物の輸出入と施設内での大麻の生産だ。これでは、思うように活動ができない。

「また、あの女か」

或る或る天国の最高責任者、天野妙華が忌々しげに呟いた。

「はい。柏原蒼菜に間違いありません」

部下が答える。水都市警違法薬物対策班、柏原蒼菜。教団は、彼女にC国マフィアとの取引を邪魔され人身売買組織を壊滅させられた過去がある。

「守屋を呼べ。あの女を捕らえさせる」

妙華が部下に命じる。守屋=ヤモリ男は、実行部隊の指揮官だった。

「それは止めた方がいいアルヨ〜」

暢気にテレビのワイドショーを見ていた唐装の女性が口を挟んだ。

「なぜだ、ファンユイ」

「ほとぼりが冷めるまで、おとなしくしてた方がいいアルネ。『好事門を出でず悪事千里を行く』、アルヨ」

ファンユイ・チュンは、C国から呼び寄せたカンフーの達人。兄フンカー・チュンは、ミラクルナイトたちに倒された。武術師範として使ってみたが、信者に怪我をさせる、道場を破壊するなど、力の加減を知らず、扱いに困っている。だが、腕は確かだ。一時期、鄙比田温泉の教団の保養施設で遊ばせていたが、妙華は護衛としてファンユイを水都に呼び寄せた

「このままでは、腹の虫が治まらん」

「宗教家のくせに、落ち着きがないアルナ」

「悪に生きる者の覚悟は、違うのよ」

「で、誰が悪なのカイ?」

ファンユイは相変わらずテレビに夢中だ。

「いや、悪の組織というより、むしろ、ただの狂人って感じネ〜」

テレビのワイドショーで、一花を小脇に抱え逃げるカエル男の映像が映し出された。一花はミラクルナイトに救出されたことになっているが、犯人のカエル男は行方不明ということになっている。

「まあ、いい。だが、監視だけはさせる。柏原蒼菜の動向を逐一報告しろ」

妙華は、そう部下に言って部屋を出ていった。妙華が去ると、ファンユイはにやりと笑った。

「柏原蒼菜…あの女、ただの刑事じゃなさそうアルネ。一度、本気でお手あわせてみたいアルヨ」


穢川研究所、研究室。

「絹枝くん、ついに完成したよ」

所長の九頭は、赤い液体が入った小瓶を摘み、助手の絹枝に見得るように小瓶を振った。

「先生が前から研究を続づけていた、ウメ女の薬ですね」

絹枝が事務的に答える。

「そう。ミラクルナイトの可愛らしさを引き立てるには、それに相応しいライバルが必要だ」

「ミラクルナイトのライバルはシオマネキ女と、既に多く市民は認識していますが…」

絹枝は疑問を口にする。最近は出番が少ないが、"青蟹の悪魔"の異名を持つシオマネキ女は、これまで幾度もミラクルナイトと激闘を繰り広げており、シオマネキ女が現れると、他の怪人が出現したときよりも市民は盛り上がる。

「"青蟹の悪魔"は可愛くない。ミラクルナイトのライバルは、奈理子に負けない可愛らしさが必要だ」

「可愛らしさ、ですか…??」

「そう。“可愛い"は”絶対正義”。ウメ女の外見を、魔法少女風に可愛らくするのに苦労したよ」

九頭は、これまでの苦労を思い出すように天井を見上げた。

「素材は既に決まっているのですか?」

外見よりも、他に力を入れるべき箇所はあるのでは?と疑問を感じながらも、絹枝は大切なことを問う。

「もちろんよ、絹枝ちゃん」

柚月が二人の会話に割って入っていた。

「人選は、柚月くんに任せてあるよ」

九頭は柚月に目を向けた。

「魔法少女風という所長の希望に沿って、それに相応しい中学生を用意しています」

柚月は一人の少女の写真を九頭の机の上に差し出した。

「まだ、幼いですね…」

絹枝が写真に移る制服姿の少女を見て首を傾げた。

「魔法少女は中学生が定番よ。奈理子のように、高校生にもなってヒロインをしている方が異常なの。大学卒業してもあんな格好している風間凛など、論外ね」

「確かに、まだ幼さが残るけど、高校生になると美少女に成長しそうな感じだね。奈理子ほどじゃないけど」

九頭は少女の写真を手に取った。

「そんなことより、"ウメ女"というお婆さんみたいな名前はなんとかなりませんの?魔法少女風に可愛らしく、ピュアプラムとか…」

柚月が言うと、九頭は一瞬考えていたが、すぐに首を横に振った。

「いや、やっぱりウメ女でいい。可愛い名前より、面白い名前の方が市民には受けるよ。ああ、ああ…。ウメ女がミラクルナイトを可愛くイジメる姿が目に浮かぶよ」

九頭は目を閉じ、その光景に陶酔した。絹枝はそんな九頭を見て溜息をついた。


水都神社。

夜の帳が下りた水都。煌めくネオンが運河の水面に揺らめき、昼間とは別の顔を見せる。そんな街を、奈理子はミラクルナイトとして見守っていた。今日は特に事件はなく、平和な一夜。しかし、その穏やかさに、かえって何かが足りないような、そんな切なさが胸に去来する。

「奈理子、お疲れ様」

ミラクルナイトが境内に降り立つと、凜が温かいココアを差し出してくれた。彼女は、ミラクルナイトの戦いをずっと見守っていてくれた。その優しい眼差しに、心がほっこりと温まる。

「ありがとう、凜さん。何もなくて、つまらなかったでしょ?」

「そんなことない。奈理子が元気に飛び回っている姿を見守るのが私の仕事だから。空が飛べるって、パトロールに便利ね」

凜に言葉に、変身を解いて制服姿になった奈理子はニッコリと笑う。その笑顔は街のネオンよりも何倍も輝いている。凜は思わず彼女をぎゅっと抱きしめたくなった。でも、突然そんなことをしたら、彼女を驚かせてしまうから我慢する。

「今日は早く帰って寝なさい。せっくかく何もなかった平穏な一日なんだから」

「うん、そうする。期末テストも終わったしね」

奈理子は凜に手を振ると、軽やかにプリーツスカートを翻して家路についた。その後姿を凜は見送っていた。彼女の無事を祈るように。


水都市内のとあるマンションの一室。

「ただいま」

柚月が夕食の準備をしているところに、少女が帰ってきた。

「おかえり、千春」

「わぁ、凄いごちそう!塾に行かせてもらって、こんなごちそうまでいただけるなんて…」

「いいのよ。私は千春の里親なんだから。私が鄙野にいる間、寂しい思いをさせちゃってゴメンね。これからは、ずっと千春と一緒だから」

「怪我したんだから仕方ないよ。でも、また一緒に生活できてうれしい。私の里親になってくれて、本当にありがとう」

「里親だけど、お母さんって呼んじゃダメよ。親子ほど年は離れていないんから、お姉さんね」

「うん、わかった、柚月お姉さん」

「学校のことは?」

学校のことは?柚月の質問に、千春の顔が、曇った。柚月が千春の里親になったのは、柚月=ツルバナ女が負傷し鄙野の鄙比田温泉に休養に入るをする前のこと。両親を交通事故で失った千春は、親戚の家をたらい回しにされ、最終的に施設に預けられた。そして、時折、施設を訪れて千春に目を掛けていた柚月が引き取ることになった。

「明日、給食がカレーだって。それに、来週、クラスマッチだよ」

「ふふっ、嬉しそうね」

「柚月お姉さんは、中学生のとき、楽しかった?」

「中学のときは、運動は普通だったかな。千春は、運動も勉強もできて偉いね」

「うん!」

千春は、元気に答えた。柚月は、そんな千春の姿を見て、胸がチクリと痛んだ。

「ごちそうさま」

「早く片付けて、お風呂入ってね」

「お姉さん、今日の塾、退屈だった。数学の問題、全部解いちゃったの。授業中、つい、他の生徒の答案、見ちゃった」

「そんなに簡単だったの?」

「うん。でも、先生、私のこと、嫌いだと思う」

「どうして?」

「私が、他の生徒と違うって…私が、いるだけで、クラスの平均が、上がっちゃうって…」

「お姉さん、中学のときは塾に行ってなかったし、そんなの分かんないわよ」

「分かってる。でも、今の私には、学校も塾も必要ないの。だって、私はね、特別だから。ね、お姉さん?」

千春は柚月の腕に抱きついた。柚月は千春の頭を撫でる。千春は柚月に似て、容姿端麗で頭も良い。だから、他の生徒に馴染めない。
リビングのテレビに、下着姿の奈理子が映し出された。ミコールのティーンズ向け下着"奈理子のブラ&ショーツ"のCMだ。

「奈理子ちゃん、可愛いわね」

柚月は千春の耳元で囁いた。
「うん。でも、こんな高い下着、私はいらないよ。こんなの買うお金があったら、安い下着をたくさん買って施設の子供たちにあげたい」

「千春は優しい子ね」

柚月が千春の頭を撫でると、千春はニッコリと笑った。その笑顔は天使のようだった。柚月は、そんな千春の姿に心を鬼にして微笑み返す。この子を幸せにしてあげたい。それには、この子を特別にしてあげるしかない。千春の才能はそんなところで使うにはもったいない。

テレビでは、ローカル番組の「今週の奈理子ちゃん」のコーナーが始まった。水都女学院高校のセーラー服を身に纏った奈理子のあと、一花お嬢様拉致事件で紫と菜々美を抱えて一花救出に向かうミラクルナイト、水都公園で菜々美とともにブナシメジ男を撃退したミラクルナイトが次々と映し出される。

「水女の子って、みんな美人だね。お金持ちは特別だから?」

千春はテレビ画面に映る奈理子たちを見て言った。

「千春も綺麗よ。千春は、奈理子たちに負けない特別な女の子だから」

柚月はそう言いいながら、千春に赤い液体が入ったグラスを差し出した。

「なに、これ?」

「千春が、より特別な女の子になるための梅ジュース」

「いい匂いがする…」

「千春の身体も心も、すべて私の蔓で包んであげる」

「蔓…?」

柚月は千春の疑問に答えずに微笑んだ。千春は少し戸惑いながらもグラスを口に運んだ。甘く、少し酸っぱい。梅の味がした。千春は、朦朧とする意識の中で飲み干してしまった。


穢川研究所・研究室。

柚月は穢川研究所の研究室に千春が赤い液体を飲む映像を送っていた。

「ついに、始まったね」

九頭は興奮した様子でテレビ画面を見つめていた。絹枝は何も言わずにモニターに映し出される千春のバイタルをチェックしている。

「千春、今、どうなっているの?」

柚月が、映像に向かって尋ねる。

「まだ、変化はありません。先生の薬は絶対というわけじゃないんでしょう?」

「心配性だな、絹枝くんは。ウメ女は私の最高傑作だ。間違いなく、千春は奈理子に負けないヒロインになるよ」

「それを、ヒロインと呼んでいいんでしょうか?」

「いいんだよ、絹枝くん。初の魔法少女型怪人、ウメ女の誕生だ」


柚月のマンション。

九頭の言葉通り、千春の身体は変化し始めていた。千春の背中から白と紅梅色を基調とした華やかな衣装が芽生え、梅の花を思わせる装飾が彼女の体を飾り始めた。千春は自分の身体の変化に驚き、悲鳴を上げようとするが声が出ない。柚月の微笑みを千春は見ていた。

「大丈夫よ、千春。あなたは、もう、ただの中学生じゃない。特別な女の子、ウメ女になるの」

「うめ…おんな…?もっと…可愛い名前がいい…」

千春の意識は、遠のいていく。変身は、完了した。千春の身体から、梅の香りが漂い始めた。

柚月は、満足げにウメ女に変身した千春を見つめていた。彼女は、もはや千春ではなくウメ女だった。白と紅梅色を基調とした華やかな衣装を身につけ、梅の花を思わせる装飾が彼女の体を飾っていた。

「ごめんね、千春…いえ、今のあなたはウメ女。名前はアレだけど、フリフリのドレスが似合ってるわ」

柚月はウメ女の手を取り、窓から飛び出した。夜の水都が、彼女たちを迎えていた。

「タワー前広場よ。パトロール中のミラクルナイトが、あなたを待っているわ」

ウメ女は、軽やかに空を舞い、柚月は、彼女の後をついていく。


水都タワー前広場上空。

水都タワーに着地したミラクルナイト。冷たい空気が頬を撫でる。

「気持ち良いい…」

期末テストも終わり、高校一年生としてやるべきことは三年生を送り出すだけだ。

「もうすぐ、二年生。一年、あっという間だったな…」

ミラクルナイトは冬の空から見下ろす水都の街が好きだった。空気が澄んで、どの季節よりも街灯りがキラキラと輝いて見える。冬の夜のパトロールは、ミラクルナイトにとって癒しとなっていた。何も起こらなければ…

「うグッ…!あぁ…あぁッ!」

突然、背中に何かが激突した。その衝撃で墜落していくミラクルナイト。

「ふっ、良い悲鳴だ、奈理子」

落下していくミラクルナイトに迫る怪人。

「ユスリカノミ…!」

ミラクルナイトは敵の姿を見た。ユスリカノミはミラクルナイトの肩を掴み、自らの体を重石として彼女を地に叩きつけようとする。

「うわぁ!ミラクルナイトが落ちてくるぞ!」
「奈理子ちゃんだ!」

タワー前広場の人々が、空から振ってくるミラクルナイトとユスリカノミに気付く。

「ミラクルパワー!」

ミラクルナイトの体が水色に輝き、ユスリカノミを振りほどく。地面に激突する寸前、ミラクルナイトは身を翻し着地した。

「不意打ちなんて、卑怯よ!」

ミラクルナイトは宙に留まるユスリカノミを睨み付けた。

「油断している方が悪いんだ。ほれ、パンツが見えてるぞ」

ユスリカノミは、ミラクルナイトをおちょくるように笑う。

「くッ…待ってなさい!」

ミラクルナイトはスカートを押さえ、再び飛び上がろうとミラクルウイングを広げた。

「あっ!奈理子ちゃん、危ない!」
「奈理子ちゃん、後ろ!」

市民がそう叫んだ瞬間、ウズムシ男がミラクルナイトの背後に取り付いた。

「奈理子ちゃんのおっぱい揉み揉みー」

「なッ…ダメッ!どこ触ってるの!」

ウズムシ男は、楽しそうに背後から奈理子の胸を揉みはじめた。非力なミラクルナイトの力では、いくらもがいてもウズムシ男から逃れることはできない。多くの市民の前で胸を揉まれる屈辱と羞恥は、彼女からミラクルパワーを発動させる集中力までも奪っていた。

壁みたいな胸に見えるけど、触ってみると微かに膨らみがあるんだな」

「いやぁ…止めてぇ!」

「ワハハ!よかったな、奈理子。胸を揉まれると、ちっぱいが少しは大きくなるかもしれないぞ」

ユスリカノミがミラクルナイトを嘲笑う。

そのときだ。

“タワー前広場にユスリカノミとウズムシ男が出現しました。現在、ミラクルナイトが戦闘中です。広場にいる方は、速やかに避難してください"

警報が鳴り響く。しかし…

「奈理子がおっぱいを揉まれているのに、逃げてなんかいられるか!」
「俺も奈理子ちゃんのちっぱい揉みたい…」

逃げる市民はいなかった。それでも、警報はミラクルナイトに希望をもたらした。警報で敵の出現を知ったセイクリッドウインドとドリームキャンディが、間もなく助けに来てくれるはずだ。

「あまり時間がなさそうだから、分身しちゃうね。いくよー、ウズムシ分身!」

ウズムシ男は、ミラクルナイトの耳元で明るく言った。

「ぶ…分身…」

ミラクルナイトからは、背後のウズムシ男の姿は見えない。絶望に震えるミラクルナイト。右側から、一体のウズムシ男が姿を現した。

「ひぃッ!」

恐怖に震えるミラクルナイトの左側からも、もう一体のウズムシ男が現れた。

「俺は、奈理子ちゃんの口を吸ってあげる」

右側のウズムシ男は、ミラクルナイトの顎を掴む。

「やめて!臭い!顔を近づけないで!」

ミラクルナイトは首を振り逃れようとするが、無駄な抵抗だった。

「ん〜〜ッ…!」

されるがままに唇を奪われてしまった

「じゃあ、俺は下の方だな」

左側のウズムシ男は、ミラクルナイトの前にしゃがみ込むと、彼女のスカートを捲り上げる

「奈理子ちゃん自慢の純白パンツ、いっぱい汚してあげるね」

スカートの中に頭を突っ込み、ショーツ越しに奈理子の股間の匂いを嗅ぎ始めた。 

「奈理子ちゃん、三人でたっぷり可愛がってあげるよー」

背後から胸を揉むウズムシ男の声も、口の中を舐め回され、ショーツを触られ擦りされるミラクルナイトの耳には入らなかった。

(んッ!…もうダメ…力が入らない…)

ミラクルナイトの意識が、遠のいていく。

(あぁ……乳首ダメッ…!…んんッ…私のパンツ…汚れちゃう…)

ウズムシ男に舌をねじ込まれ、ショーツ越しに弄ばれ続けるミラクルナイトの抵抗は、やがて完全に止まった。

「奈理子…」

タワー前広場の様子をリビングのテレビで見ていた凜は叫んだ。

「奈理子、今、行くわ!」

凜はセイクリッドウインドに変身する準備をしていた。

塾帰りに警報を聞いた寧々も、スマホでミラクルナイトの窮地を確認した。

「酷い…」

寧々はドリームキャンディに変身する準備をしていた。

「奈理子さを弄ぶウズムシども、絶対に許しません!」


タワー前広場にやってきたウメ女。彼女の目に飛び込んできたのは、大型ビジョンに映し出されたミラクルナイトの姿だった。

「え?なんでこうなってるの??」

理由はわからないが、ミラクルナイトと戦わなければならないと思いここに来たのだ。なのに、ミラクルナイトは三体のウズムシ男に嬲られいる。彼女は既に敗北している様子だ。

「おう、お前が新型の魔法少女型、ウメ女か。まだ、子供だな」

宙に浮かぶユスリカノミがウメ女の姿を見つけ、彼女の前に舞い降りた。

「あなた、誰?」

「ユスリカとノミの合成怪人、ユスリカノミだ」

「ユスリカとノミ…弱そう…」

ウメ女は、ユスリカノミに聞こえないように小さく呟いた。

「約束通り、奈理子を誘き出したぞ」

「約束??」

「お前のデビュー戦のために、ツルバナ女から頼まれたんだよ。もっとも、奈理子はもう戦える状態じゃなさそうだが…」

ウメ女とユスリカノミが話しているうちに、市民がウメ女に気づいた。

「誰だあれは。コスプレ少女?奈理子の新しい仲間か?」
「ユスリカノミと話しているぞ。敵じゃないか?」
「あの姿は、どう見ても正義のヒロインだろ。休日の朝にやってるアニメに出てきそうだ」
「可愛いは正義。可愛い女の子が悪役のはずがない!」

市民も、突然姿を現したウメ女に戸惑いを隠せない。

「正義の味方って思われてるぜ。立っているだけでパンチラしてるのは、所長の趣味か?」

ユスリカノミがウメ女をまじまじと見る。彼女のドレスの裾は前が短く、ピンクのショーツが覗いていた。

「私は、ミラクルナイトのライバル。だから、あなたたちとは違う。それに、これはパンツじゃなくてコスチュームの一部」

ウメ女はユスリカノミに背を向け、ウズムシ男たちに向かった。

「ミラクルナイトは私が倒すから。あなた達はミラクルナイトから手を離しなさい」

「ははっ、生意気なことを。お前ごときが俺たちに命令できるか」

「さっさと消え失せなさい」

ウメ女がウズムシ男たちに怒鳴る。

「女の子に叱られるなんて、照れるなー」
「だよな。でも、命令されるのは、ごめんだ」

三体のウズムシ男は放心状態のミラクルナイトを投げ捨て、ウメ女に襲いかかった。

「あっ!早い!」

しかし、ウズムシ男の攻撃はウメ女の周りを舞う梅の花びらに阻まれた。

「なんだ、これは」

「五弁結界」

ウメ女が両手を広げると、ウズムシ男たちの目の前に五枚の梅の花弁が現れ魔法陣のような結界を形成した。ウズムシ男の攻撃はその結界に弾かれてしまう。

「おおっ!ウズムシを攻撃したぞ!
「やっぱり、奈理子の仲間か?!」
「ピンクのパンツ丸見え!可愛いぞ」

市民の歓声が飛ぶ。

「おいおい。俺たちは仲間だぞ」

ユスリカノミがウメ女の背後に回り込むと、彼女に飛び掛かろうとした。しかし、ウメ女の背後からも梅の枝が伸びユスリカノミを捕らえた。

「悔しいが、見事な動きだ」

ユスリカノミが身動きが取れないまま悔しそうに言った。

「ミラクルナイトは私が倒す。あなた達には渡さない」

ウメ女は、そう言うと、ユスリカノミとウズムシ男たちを攻撃した。

「紅梅・ファンタジア」

ウメ女が両手を広げると、大量の梅の花びらが舞い始めた。花びらは三体のウズムシ男たちを包み込んだ。ユスリカノミはとっさに上空に舞い上がったが、ウズムシ男は梅の枝に捕らえられたまま花びらに覆われる。

「うわあああああああ!」

三体のウズムシ男たちは、花びらに包まれると、光の粒となって消滅した。

「すごい…」
「あれでいいんだ?」
「ミラクルナイトを助けたし、奈理子の新しい仲間だな」
「やったー!」

市民はウメ女の登場に興奮していた。大型ビジョンに映し出されるウメ女の姿は、ミラクルナイトに負けないほど可愛らしかった。

「ユスリカノミ!」

ウメ女が上空に逃れたユスリカノミに向かって梅の実を弾丸のように発射する。

「くッ!」

梅の実弾が、ユスリカノミの羽根に命中する。

「くそっ、今日のところは、これで失礼する」

ユスリカノミは羽根を傷付けられがらも、上空へと逃げていった。

「やったー!」
「危ないところだった」
「奈理子の新しい仲間か、期待できるな」

市民たちはウメ女を称賛し、ミラクルナイトを気遣っていた。そんな中、ウメ女は倒れたミラクルナイトに近づいていく。彼女のドレスの裾が風に揺れ、ピンクのショーツが見える。

「ミラクルナイト…大丈夫?」

ウメ女がミラクルナイトの肩を優しく揺するが、彼女は反応しない。

「大丈夫じゃないよ…こんな格好で…パンツも…汚されちゃった…」

ミラクルナイトはかろうじて意識を取り戻し、ウメ女を見て言った。

「私は、あなたを倒すために来た。でも、あなたがこんな状態じゃ、意味がない」

ウメ女は、ミラクルナイトを助け起こすと、彼女を抱きしめた。

「えっ…?」

ミラクルナイトは、ウメ女の突然の行動に戸惑う。

「今日のところは、これで終わり。次に会うときは、ちゃんと戦ってね、奈理子ちゃん」

ウメ女がそう言うと、彼女の体に蔓が巻き付き、彼女を連れ去っていった。

「待って…」

ミラクルナイトがウメ女に声をかけるが、彼女はすでに遠くに去っていた。

「奈理子!さっきの女の子は何?」

ようやく、セイクリッドウインドがタワー前広場に到着した。

「奈理子さん、大丈夫ですか?」

続いて、ドリームキャンディも到着。

「あの可愛い子、助けてくれたんだ」
「でも、敵だったみたいだけど…」
「あの蔓、どこかで見たような…」

市民たちは、ウメ女の正体に混乱していた。

「私も…よく分からないの。でも、彼女は…私の敵みたいなの…」

ミラクルナイトは、動揺しながらも、そう答えた。


穢川研究所の研究室。九頭と絹枝は、モニターに映し出される広場の様子を見つめていた。

「見事だ…ウメ女は、私の最高傑作だ」

九頭はウメ女の活躍に興奮していた。

「市民の反応は上々のようですね」

絹枝がモニターに映し出される市民の声を分析しながら答える。

「そう。市民はウメ女に同情し、支持している。ミラクルナイトと同じように愛されているんだ」

「ウズムシ男を失ったことは誤算でしたが、先生が望んだ通りになりましたね」

絹枝は九頭の望みが叶ったことに少し安堵した。

「ただ、千春本人の精神状態が心配です。彼女はまだ子供です。このまま彼女を戦わせ続けていいのでしょうか?」

「心配するな、絹枝くん。奈理子は中学生の頃からミラクルナイトをやっているし、ドリームキャンディは千春と同じ中学一年生じゃないか」

九頭は絹枝の心配を一蹴した。

「それに、ウメ女の可愛らしさは、千春の純粋さが残っているからこそ。彼女を守るためにも彼女を戦わせるんだ」

「先生…」

絹枝は九頭の言葉に何も言い返せなかった。

「柚月くん、聞こえるか?」

九頭は通信機で柚月に呼びかけた。

「はい、所長」

「ウメ女の初陣、相手がウズムシになってしまっが、見事だった。千春の里親として、君の役目も素晴らしいものだ」

「ありがとうございます、所長。千春のことなら、心配無用です。彼女は私の蔓で包まれていますから」

柚月はそう言うと、通信を切った。

「九頭先生…」

絹枝が九頭に何か言いたそうにするが、言葉にできなかった。

「いいんだ、絹枝くん。私たちは、物語を創っているんだ。千春はその物語のヒロインの一人。彼女を悲しませるわけにはいかない」

九頭はモニターに映し出されるウメ女の姿を見つめていた。

「ウメ女はミラクルナイトのライバルとして、水都に新しい物語をもたらすんだ」


柚月のマンション。

柚月はウメ女の姿が映し出されているモニターを見つめていた。

「千春…」

柚月は千春の名前を呼んだ。

「どうしたの、お姉さん?」

千春が柚月の後ろから声をかける。彼女は何も覚えていないようだった。

「あ、千春。いえ、なんでもないよ」

「お姉さん、お腹すいた」

「そうだね。ご飯にしましょうか。今日は、千春の好きなオムライスを作ってあげるね」

「やったー!」

千春は、柚月に抱きついた。柚月は、千春を抱きしめた。

(第245話へつづく)